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見えない水脈

「私なんかの推測を聞く前に、バチカンとしての見解を教えてよ」


 私がそう言うと、法王はフンと鼻を鳴らした。


「1949年8月22日のニューヨーク・タイムズは、これこそペテロの遺骨であると報じ、その後の1968年にはパウロ六世がこの遺骨がペテロのものであると確認されたと発表している……ま、現在のバチカンとしてはもうこの遺骨についての論争は終結しているという立場だ」

「ふぅん……何だかちょっと強引な感じはするはね……そもそもパウロ六世になってから改めて遺骨はペテロのものであると声明を出した理由は何なの?」


 教義や奇跡を巡る真偽の論争などバチカンの周囲にはうんざりするほど溢れているだろうに、ペテロの遺骨については、わざわざ念押しでもするかのように声明を出したというのは、不自然に思える。


「ならば、まず、その1968年とはどんな年だか分かるか?」


 私は首を傾げた。


「えーと、そうね……結構色々大きな事件があった年よね……」


 ベトナムでの『テト攻勢』に始まり、ポーランドでの『3月事件』、キング牧師暗殺、ロバート・F・ケネディの暗殺、プラハの春----俗に動乱の1968年と呼ばれる所以である。


「一見するとバラバラに起きた事象のようだけど、第三次世界大戦の引き金になりかねないようなものばかりが連続して起きた……いや、起こされてるって感じがする」

「その通りだ……我々は幾つかの事件の裏ではトゥーレ協会が動いていたと見ている」


 あー、そういう事なのか。

 それなら何となく分かる。


「バチカンとしては、切り札はこちらにあると世界に向けて宣言しておく必要があったのね」

「こっちが本物のペテロ様の遺骨でございなんてやられたら商売上がったりだからな……というのは冗談にしても、世情の不安を煽り、バチカンの根幹を揺るがすような『新発見』はどうしても阻止しておく必要があった訳だ」


 もちろん考古学的には状況証拠しかないので、真偽については半世紀以上が経過した2010年代になってもオカルト界隈での論争は続いているらしい。


「で、その遺骨は今はどうなってるの?」

「現状としては、遺骨は専用の棺に納められた上でクリプタの施設に安置している……2013年の11月24日には前年10月から行われていた信仰年の締めくくりミサの中でこの棺を初めて公開している」


 要は、ナチスの残党に対するバチカンの牽制なのだ。

 脈々と続くマジカル・ウォーの最終兵器だと考えると、感慨深いものがある。


 この世界の奥底を流れる見えない水脈を辿って行ったとして、私は最後に何を見る事になるのだろうか?


「……で、改めて聞くが、お前はペテロは何者だと思ってるんだ?」


 法王は私に問う。


「教えてくれ……ペテロは……使徒にして最初の法王シモン・ペテロという人物は、一体何処から来たのだ……?」

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