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第五部 修道服を着た魔女

「アンソニー……これは一体どういう事なの!?」


 私は腕組みをして仁王立ちになっていた。

 法王の前とはいえ、怒るなという方が無理な話だろう。


 だって----魔女に修道服を着せるなんて、どう考えても神を冒涜している。


「いや、神への冒涜とかそんなのは私は、人間じゃないから別にどうでもいいのよ……でもね、まずいでしょ……!?」


 一方の法王はといえば、ベルベッドの椅子に深く腰掛け、自分の眼鏡を神経質な手付きで拭いている。

 法王の祭服を纏っていなければ、まるで客のいない古書店で物思いに耽る初老の店主だ。


「問題ない……それさえ着ていれば誰もお前達を魔女だとは認識しない……現にあの時だってベルリンまで無事に辿り着いただろう?」

「それはそうだけど……」


 私が着ているのは、漆黒の修道服だ。

 とは言っても、このバチカンに幾つもある宗派のどれにも属していないデザインになっている。


 白い頭巾ウィンプルの上に被った黒いベールに、くるぶしまでを覆う黒いトゥニカ。

 そしてその上からは黒いスカラプリオと輝くロザリオ----よほどバチカンに精通した者でなければ、単なるシスターの格好として看過してしまう最大限の特徴を組み合わせたものだ。

 

(ベルリン行きの時にカモフラージュとして着せられたのとはまた違うわね……なんか……色々と仕掛けがしてあるみたいだし)


 ちなみにウィンプルは中世前半に既婚女性が付けるものとされた頭巾であり、ベールは結婚式の時などに被るものであった。これらの衣装は、一説には神と結婚し純潔を守ることを示したものであったとされる。

 そのため、シスターの中には左手の薬指に神との結婚を示す指輪をする事もあるそうだが----私の薬指にもやや太めのシルバーの指輪がキッチリと嵌っている。


(これ、何の紋章だろう……? どうせなら漁夫の指輪でもくれればいいのに……)


「あ、その指輪は無闇に弄るなよ? 爆発するぞ」

「ちょ……ッ、そういうのは先に言ってよ!」

 

 私が怒ると、初老の男はやっと身を起こして眼鏡を掛けた。


「……で、今度は何かしら? こんな服を着せて次は私にどんな輪っかを潜らせるつもり?」

「お前がどんな輪っかを潜ろうと、それを選ぶのは私ではない……お選びになるのは、主だ」


 ようやく聖職者らしい言葉を発して、ピウス十三世は天を指し示す。


「そしてその修道服……そしてスカラプリオは、私を通じて主がお前に授ける祝福だ……恵みと免償だ」

「……それ、五百年前に欲しかったわね」


 私は腕組みを解く。


「文句を言いたいのならインノケンティウス8世の墓の場所を教えてやるが?」

「どうせ大聖堂にあるんでしょ? 私が入れる場所じゃないわよ」


 そう言うと、法王はニヤリと笑った。


「大丈夫だ……お前は大聖堂にだって入れる。そのための修道服だからな」

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