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光纏う者

 凄まじい光。


 網膜に叩き付けるような眩しい光。


 全てを焼き尽くそうとするかのような、圧倒的なエメラルド色の閃光----。


「アイリス……ッ!」


 その中心から、叫び声と共に小さな影が現れたかと思うと、

 咄嗟に広げた両腕の間に隕石のように落ちて来て----私の身体に思い切りしがみ付いた。


「わ、メリッサ……!?」


 驚きと物理的な衝撃のダブルコンボで、情けない声を上げてしまう。


「なんで……ここに……?」

「なんでって、アイリスが呼んだから来たんじゃないの……」


 緑の光の中で、少女は一糸纏わぬ姿で私を見上げる。

 何を言ってるのよと言わんばかりに黒い瞳が輝くのを見て、私は長い夢から覚めたような心持ちで尋ねる。


「私が……貴女を……呼んだの……?」


 確かに名前を呼んだのは私だが、本当にこうして現れるなんて思ってもいなかった。


(……いや、まさかこれも杜門……いや、カラビ・ヤウ空間が私の脳に見せている幻覚かも……)


「……って、いたたたたた……!」


 細い指が私の頬を力任せに捻っている事にやっと気付いて、私は悲鳴を上げた。


「ボヤボヤしてる暇はないわよ!」

「す……すみませんッ!」


 女主人メリッサの一言で、身体中の痛みと無力感は吹き飛んでいた。


「もうすぐ空間が完全に閉じちゃう! 急いで外に出るわよ!」

「出るって……どうすれば……?」


 完全なる無の空間で、私とメリッサは抱き合ったまま浮かんでいた。


 上も下も分からないどころか、出口という概念さえ消滅してしまっているかのような果てしない闇の中で私とメリッサの鼓動だけが規則正しく時を刻んでいる。


 こんな人知を超えた世界で、私に一体何ができるというのか。


「ねぇメリッサ、貴女なら知ってるんでしょ? こんな時はどうすればいいのか……でも私には……」


 私は魔女ではない。


 私は自分を魔女と思いたくない単なる人間だった。


 私は----魔女になりそこなった人間なのだ。


「……問う事は美しい」

「え?」


 頬をそっと撫でられて、私の背筋を微かな電流が走った。


「だが、我らがすべき事は……闇に向かって果てしなく問うよりも、一つの答えを掲げ闇を照らす事」


 少女の瞳が、変化していた。


 黒から緑へ----エメラルドの炎へ----。


「……愛しきグラン・ルーメよ……今こそ、その身に秘めし偉大なる光を掲げよ……!」 

「……ッ!」


 そうだ。

 答えは、私の中にあるのだ。


 急いでポケットをまさぐると、指先に冷たい感触が当たった。

 それが何か分かる前に、弾かれるようにして私は叫んでいた。


「エッファタ!」


 三枚のコインが宙を舞った瞬間、漆黒の天蓋が二つに割れて、私はその向こうに女神ケレースの顔をはっきりと見たのだった。

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