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魔女ニクス

「……でも、妹は死んだ」


 鬼火が揺れる。

 ゆらゆらと震える。


「もう、こうなったら……ッ、私には、何の望みもない……ッ!」


 愚者火の少女は、絶叫した。


「私だけが人間になったって、一人ぼっちで生きたって……ッ! そんなのはッ、幸せなんかじゃないッ!」


 真紅の口腔から絞り出すように、絶叫する。

 抱えているランタンの目が、ギラリと光を放つ。


「だからもう……ッ、ここで全部燃やしてやるッ!」


 愛らしい顔を憎悪に歪め、少女が私に向かって突進して来る。

 凄まじい気迫が----いや、強烈な電磁波がその小さな身体から放たれ、私の脳が悲鳴を上げる。


(ダメだ……このままだと『飛ばされ』る……ッ!)


 これが魔女だ。

 魔女の『力』だ。


 はじまりの魔女モルガナがかつて法王庁にもたらした大厄災の片鱗を、今私の細胞は味わっているのだ。


(うぅ……頭……ッ、おかしくなりそう……ッ!)


 私はよろめいた。

 もう神経が焼き切れてるのではないかと思うくらいの苦痛に、立っていられない。


「お前も死ねッ! あの子の分まで苦しんで死ね! 死ね死ね死ね死ね……ッ!!」


 魔女ニクスが、私の眉間に人差し指を突き付けた。


「燃えろッ!!」 


 ----その瞬間を、私は待っていた。


「燃えるのは貴女の番よ!」


 長々と喋っている間にフォロロマーノ中に散りばめられた五芒星の位置は全て把握していた。

 あとは、その内容が正確かどうかだ。

 

「な……ッ、何を……!?」


 飛び掛かって来た小さな身体を、私は力任せにぶん投げ、そしてそのまま地面に伏せた。

 その先には、広場フォルムと呼ばれる小さな草地が開けている。


 草地に転がる大理石の塊の表面で、五芒星が輝いた。


「やッ!? 何でッ!? 何で私が燃えてるのッ!?」


 次の瞬間、少女の絶叫が大気を震わせた。


「やだッ! 熱い!! 熱いよぉぉ!!」


 少女が棒立ちになっているその場所こそは、八門のうちの一つ----開門だ。


 本来であれば三吉門の一つであり、持っている能力を引き出し、存分に発揮することができるとされている。


 だが、少女の立つフォルムを遠巻きにするようにして、フォロロマーノの外には軍事用の特殊な鏡が隙間なく設置されていた。

 

 反射率が限りなく100%に近いそれは、少女が己の限界を超えて放った電磁波を瞬時に増幅させ、無数の青い光の矢へと変えて少女の全身に突き立てたのだ。


「いやだぁ!! こんなのって、ないよぉぉぉぉッ!!」


 肉が焦げる匂いがする。

 髪が燃える音がする。


「私は……ッ、あの子と……ルクスと、あぁ……ッ、生きたかっただけ……なのに……」


 魔女が燃えている。


「私達の邪魔をする人間を、燃やしてきただけ……なのに……」


 私は大剣を握り直し、少女の足元に転がったままのランタンに狙いを定めた。


 魔女は----この手で灰にしなければならない。

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