わたしのだいじなおとうと
弟のマヌエルは、私の全てだった。
マヌエルのために私が生まれてきたのだと幼い確信を抱くほどに、
マヌエルは私を必要とし、私もマヌエルを必要とした。
だから、私達は繋いだ互いの手を離す事はなかった。
私が十七歳のあの日、暗い森で再び目を開けた時も、マヌエルは私の手を離そうとはしなかった。
そんな弟の手を、だけど私は二度と再び握る事はできなかった----。
『森の奥には魔女がいる』
『森に迷い込んだ者は、魔女に魅入られる』
『魔女に魅入られてしまった者は、魔女に食べられてしまう』
マヌエルと私は森にいるところを捜索隊に発見され、城へと連れ戻された。
血で染まった私の服を見て、一体何が起こったのかと誰もが私達を問い質したが、私は何も覚えてはいなかった。
胸元を深く抉っていたはずの牙の痕が、うっすらとしか残っていないのが、ただ不思議だった。
人々が恐ろしそうに交わす囁きの意味が、分からなかった。
『森の中の魔女に会って無事な者はいない』
『森の中の魔女と契約すれば、その者は魔女になる』
『魔女になった者は、不死身になる』
私とマヌエルはすぐに引き離され、城の端と端の部屋に入れられた。
何が起こっているのか分からないまま、私は部屋に唯一開けられた窓の外を見ながら数日を過ごした。
『魔女は殺しても死なない』
『魔女を見分けるためには審問を行う必要がある』
『魔女裁判を、しなければ』
食事を持って来た侍女は目を伏せ、盆を置くと逃げるようにして部屋から出ていく。
見舞いに来たと言う親族達は、市場の家畜でも見るかのような目で私を見下し、すぐに姿を消した。
寝台の脇には、手を付けないままの食事が積み上がっていった。
マヌエルの事を聞いても、誰もが口を閉ざしたままだった。
弟の事だけを想いながら、私はこの部屋から出られる日をひたすらに待った。
だけど----その日は突然やって来た。
突然黒衣の男達が雪崩れ込むようにして部屋に入って来た時----ようやく私は自分がこれから辿るであろう運命について思い当たる。
そう、領主の娘である私■■■■は、魔女として告発されたのだった。




