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カエサルのものはカエサルに

 私の叫びに呼応して六芒星は眩く輝き、空に向かって高々と延びる光の柱を出現させる。

 そして、その光の粒子が凝縮したかと思うと----。


 一振りの大剣が、私の右手に吸い寄せられるように実体化した。


「さぁ魔女ども! 贖罪の時間だ!!」


 数秒遅れで出現した白いカラスが咆哮する。


「神に仇なす者を討て……!」


 それを合図に、私はスヴィトラーナに向かい大剣を振り上げる。


『そんな……単なるモルガナの器が……この私の術を破っただなんて……』

「破ったのはバチカンよ……言ったでしょ? できそこないの私には何の力もないわ」


 私は微笑んで見せた。


 そう。

 私はできそこないの魔女。


 法王庁の、道具。


 法王の----剣。


『裏切者ッ!』

「そんな事、言われても困るわ……私は貴女と仲間だった覚えもないし」


 私は、魔女を殺すための剣でしかない。


 だから貴女とは分かり合えない。

 仲間にはなれない。


 たとえ何度灰になり、生き返ろうとも。


 私は、あの魔女を殺すためだけに、生きるから----。


「だからごめんね……貴女に永遠を与える事はできないのよ……!」


 言葉と共に私はガーネットの塊へと刃を叩き付けた。


『ああああああああああああああああッ!?』


 凄まじい手応えと共に、絶叫が、私の頭蓋を内側から震わせる。

 脳神経が、焼き切れそうに熱くなる。


 ガキィィン!


 巨大な宝石は、呆気なく四散した。


 キラキラと輝きながら、粒となり、粉となり、そして----灰へと戻っていく----。


『……ごめんね』


 念話モードにしても、もう石の魔女には、恐らく聞こえてはいないだろう。

 それでも、私は言わずにはいられなかった。


『次は……もう魔女なんかになっちゃダメよ……?』


 もちろん、返事は、もうない。


 パキ……ッ。


 パキ、パキパキ……!


 ガーネットの結晶に変えられていた封印帯が、元の姿へと戻っていく。

 いや----壊れ始めていた。


「……ねぇ、スヴィトラーナは何故この島まで来たの? 石の声が聞こえるだけの『平凡な魔女』が、どうして人間を石に変えたりするまでの力を持てるようになったの?」


 私の言葉に、モルガナは無言のまま微笑む。


「この島……いいえ、この島の下に沈んでるアトランティスと、はじまりの魔女の貴女は、一体どんな関係なの……!?」


 魔法陣の上のモルガナの姿は、次第に薄くなっていく。


「まぁ、いいわ……貴女が教えてくれなくても、このダイヤモンドはこの地球が誕生してからの記憶を持っているんでしょ? 今は答えてくれなくても、いつかは……」


 くす。


 すぐ耳元で含み笑いが聞こえた気がして、私は息を呑む。


「カエサルのものはカエサルに」

「……え?」


 それがマタイによる福音書の一節だと気付いた時には、私の胸元からマザランのダイヤモンドは消えていた。


 そして----魔法陣の上には、横たわる少女だけが残されていた。

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