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 気が付けば、私達三人は、それぞれが頂点となった三角形を描くようにして対峙していた。


 始まりの魔女モルガナと、石の魔女スヴィトラーナと、そして、できそこないの魔女である私----。


 一人は束の間の受肉という形を取り。

 一人は鉱物に姿を変え。

 一人は、生身の人間のまま----。


 それは、奇妙な静謐さに満ちた空間だった。

 さながらここに、一つの魔法陣が描かれているかのような----。


(……魔法陣……?)


 私は急いで目を瞬かせる。

 途端に、眼下に赤く光る正三角形が浮かび上がった。


「……ッ!」


 私は自分の思い付きが思い付きではなかったらしいと悟る。


(シンプルだけど……だけど、これもれっきとした魔法陣だ!)


 モルガナと私という二人。

 私とスヴィトラーナという二人。

 スヴィトラーナとモルガナという二人。


 どの組み合わせであっても、それらは全て偶数である『2』を示している。


 そして、数秘学の祖ピュタゴラスの信奉者達によれば、『2』は偶数であり、二分されて虚無しか残らない、悪魔の数とされているのだ。


 忌むべき存在と看做されている二人の魔女と、そこに登場したもう一人の魔女----。


 『1』は、全ての始まり。


 宇宙の基礎。

 神の隠喩。


 そして、魔術の基本だ。


 偶数であり悪魔の数である『2』と、奇数であり神の数である『1』だけしかなければ、宇宙は広がる事ができない。


 だから、今ここで生成された三角形、つまり『3』は、やはり魔法陣なのだ。

 完全数という名の、単純かつ強力な----。


(そしてこの赤いオーラ……という事は、これを作ったのはスヴィトラーナ……!)


 オカルト的な話はあまりしたくないのだが、人間が持っている生体エネルギー、いわゆるオーラの色はそれぞれ違うらしい。

 そして、魔女もそうだ。

 魔女の場合は実際に魔法陣の色や、術を使う時に測定される脳波の波形にそれぞれ個人差があり、識別が可能なのだ。


(この女、石になってまでまだ私達を道連れにする気……!? どんだけしぶといのよ……!)


 どうやらスヴィトラーナは、この封印帯に囲まれた空間ごと私達まで石化させようとしているようだった。


『モルガナに助けを求めても無駄よ……もう何の力も感じないもの』


 勝ち誇った響きが頭の中で響いた。


『やっとこの姿になれたのに、またバチカンに連れて行かれて実験材料にされるなんて、まっぴら御免だわ』


 ピキピキ。

 ピキ……ッ。


 見上げた封印帯が、赤く変色していく。

 ガーネットの結晶でできたドームに変えられていく。


『私はもう、永遠を手に入れたの……だから後は、裏切り者はここで勝手に朽ち果てればいいわ』


 スヴィトラーナの声が聞こえるのは、このマザランのダイヤモンドのお陰のようだ。

 封印されている事で、かえって石の魔女の力がこの場を制圧している証明でもある。


(モルガナは、何を考えてるの?)


 私はそっとはじまりの魔女を見やる。

 身じろぎ一つしない白い裸体は、相変わらず緑の炎を纏ったままその場に留まっている。


(私が、やるしかないのか……)


 私は右手を握り締める。

 フルンティングがなければ、私は戦えない。


 だけど、そもそもそのフルンティングを召喚できなければ、私はここで石の魔女に付き合って干物にならないといけない訳で----。


(あのクソ眼鏡……!)


 私は砂を蹴り、駆け出した。

 

(これって、つまりは時間切れで星辰の位置とシンクロできなくなっても、数秘術でも何でも使って切り抜けろって事だったの……!?)


 ピュタゴラスが数秘術の始祖として知られているが、その数千年前のギリシャや中国、さらにはエジプトやローマでも数秘術が使われており、思想の源流は遥か昔に遡ると考えられている。


 数秘術自体は長らく口伝であったため、現在はその断片が誕生日占いの方法などとして流布しているが、本来は宇宙の根幹を操る事を目的とした、れっきとした魔術なのだ。


(アンソニー、あいつ……まさかカンパネルラの生まれ変わり……とかじゃないわよね……?)


 ルネッサンス期にも関わらず占星学を駆使して時の法王を魔術漬けにした怪僧がいたらしいが、それから少なくとも三百年は経っている。

 なのに、これが今のバチカンのやり方なのだ。


 そう。

 ピュタゴラスの数秘術は、今この瞬間も宇宙のハーモニーを解く鍵として受け継がれている。


 バチカンは、信仰の中心であり、なおかつ世界の魔術の中心でもあり続けているのだ----。


(ホント、気に入らないったら……!)


 無辜の一般人を魔女として処刑しておきながら、二十一世紀にもなってそのなりそこないの魔女に知識だけ与えてあとは自分でやってみろというのは、本当に気に入らない。


(でも、使うしかないか……!)


 文句を言うのは後だ。

 オカルトでも学問でも、使えるものは使うしかない。


 私は砂の上に投げ出されたままの蝙蝠傘を拾い上げ、赤く燃える正三角形の上に、もう一つ、逆向きの正三角形を走り書きする。


 六芒星が砂の上に現れる。

 その星に、色はない。


「残念ねスヴィトラーナ! これで、6になったわよ!」


 そう、これもまた完全数だ。

 『6』は、調和と平和の数だそうだ----残念ながら私にとって、ではないようだが。


 私が作り出したのは、封印帯と外とのグラマー域のバランス----その一点だった。


 私は六芒星に向かって手を差し伸べる。


「おいで、フルンティング……!」

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