目的
『作戦中止ッ! 作戦中止です……ッ! 』
私の説明を聞く前に、白いカラスは急旋回して上空へと飛び去る。
まるで隼のような勢いだった。
『現時刻をもってフェイズ移行に入ります!』
星空の下には、暗い海が広がっている。
恐らくは、小型の船か何かを待機させているのかもしれないが、私の目では捉える事は無理だろう。
『各自、対電磁波防護装置の作動を確認してください!』
『回収班は域外へ退避だ! 指示あるまでシールド展開を持続しろ……!』
AIと司祭枢機卿の声が、ほぼ同時に流れ込んで来る。
それに加えて、これまでは聞こえなかったノイズが通信に混ざり始め、私は顔を顰めた。
多分、私とスヴィトラーナを囲むようにして強力な電子封鎖が始まったのだ。
『特殊装備転送システム起動! バッテリーへの充電を開始します!』
『了解、島内での必要電力分は絶対に不足させるな……停電騒ぎが起こると色々と面倒だ』
私は右手をそっと握る。
見なくても、熱を帯びているのがはっきりと感じられる。
この島にどれだけの人員が連れて来られているのかは分からない。
だが、臨時に設置されているであろうオペレーションルームの喧騒を、オペレーター達の張り詰めた息を、私はノイズの向こうに確かに感じ取っていた。
『おいッ、なりそこないッ! どういう事だ!? そいつは投降したんじゃなかったのかッ!?』
アンソニーの怒号が鳴り響く。
いい加減にそろそろ音量の調整くらい覚えて欲しいものだ。
『ジェヴォーダンの獣の時と同じく、今回の騒動も観測気球という判断だったんだぞ……ッ!? 俺も、カーラもだ……ッ!』
『でも貴方だって自分で言ってたでしょ!? 協会が送り込んだにしては監視役の気配が全然ないって……そう、言ってみれば……全ては彼女のブラフだったのよ』
私だって今の今まで気付かなかった。
だが、スヴィトラーナの手を握っている間に、突然彼女自身の記憶が流れ込んで来たのだ----。
『って事は、じゃあ、本当に……そのマザランの十九番目のダイヤモンドが……目覚めたって言うのか……!?』
『ええ、聖遺物もたまには魔女の役に立ってくれるものなのね』
私は首元のネックレスに手を当てた。
『もういいでしょ? 今すぐ拘束解放の許可を出して……!』
舌打ちが聞こえたが、司祭枢機卿の判断はさすがに早かった。
『拘束解放を許可する! いいか腐れ魔女ども……絶対にそいつを逃がすなよッ!?』
『りょーかいッ!』
メリッサの、状況が分かっているのか分かっていないのかイマイチ分からない張り切った声が流れ込んで来た。
彼女が指示通りのポイントで待機してくれている事を祈りながら、私は後ろを振り返った。
「スヴィトラーナ……貴女、本当はこうなる事が目的だったのね……?」




