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石の魔女

「……そんな事だろうとは思ってたわよ」


 蟹を歩かせるのに夢中なメリッサを見やり、私は首振る。


「こんな島まで遠出だなんてヤケに気前が良いと思ったら、やっぱりね」

「そうだ」


 だが、私はふと気になる。


「ラボはその話知ってるの?」

「いや」


 だが、データは今この瞬間も記録されているはずだ。

 仮にラボが気付いていないとしても、その石の魔女とやらを見付けて戦闘状態になれば、速攻でデータに異常が出るはずだが----。


「いや、今日一日測定したデータを基にダミーのデータを作り、それを送信するようになっている」

「ダミーのデータを作る? 誰が?」


 そう言って、私はやっと気付く。

『資材置き場』で留守番をしているカーラβは、恐らくは今その作業の真っ最中なのだ。


「……なるほど、偽装のためにカーラを部屋に置いて来たのね」

「いや、潮風にあまり当てたくないだけだ……代替機の予算がないからな」


 しれっと答えられては、これ以上聞く事もできない。

 ここまで喋ってくれたのがむしろありがたいくらいだ。


「……分かったか? 浜辺で水遊びさせるためにわざわざ連れて来てやってると思ったら大間違いだぞ?」

「さすがにそこまでは思ってないわよ」


 しかしこれは、ラボに対する完全な裏切りに当たるのではないだろうか。

 いくらカーラの性能に信頼を置いているからとはいえ、やる事が大胆すぎる。


(いや、そもそもカーラβを作成したのだって、もしかすると……)


 小さいが発達した昆虫の脳を利用して、持ち運び可能な超高性能コンピューターを作るという技術があるらしいが、この男は今のこの事態まで予想してカーラβを作らせたのだろうか。

 それも、代替機を作らせない機密の塊として----。


 だとすれば、司祭枢機卿であるこの男なりの今後のプランがあり、到達地点があるはずだが----今は何も窺えない。


(一体、私達を使って何をするつもりなの……?)


「石の魔女についての詳細は不明だ」

「お膝元にしては情報が少ないって事ね……この島での法王庁の力は昔ほどではなくなったって考えていいのかしら?」


 サントリーニ島には高級ホテルや別荘が集まり、多くのセレブが訪れているという。

 悲しいかな現代は完全なる資本主義だ。


 経済力において企業が国を凌駕する事も珍しくないという話は、この島でも例外ではない。


「……ふぅん、とりあえず分かったわ」


 アンソニーによれば、この島に滞在するセレブの数人がその石の魔女の犠牲になったという。

 いずれもこの島に来てからすぐにある女性と婚約し、その後に突然死したらしいのだが----。


「全員が、石にされてたそうだ」

「それは分かりやすいわね……でも、死体がそんな見た目なら、普通は一件目ですぐさま報告が上がるんじゃないの?」


 私が想像していたのは、石像のような死体だ。

 しかし、司祭枢機卿は懐から一枚の写真を取り出した。


「……外見は全く普通の死体だ。だが、解剖しようとしたらメスが折れた」


 そこには、頭の天辺から真っ二つに切り分けられた中年男の死体が映っていた。


「何よこれ……!?」

「……体内の組織が全てアメジストになっていたんだ」


 血は一滴も流れてはいない。

 それもそのはずだ。


 中年男の体内は光り輝くアメジストに満たされていた。

 死体は、等身大の晶洞----宝石商が見たら泣いて欲しがりそうな見事なジオードと化していた。


「被害者のうち三人目を解剖した医師から初めて教会に連絡が行ったんだが、一人目と二人目の葬儀はもう済まされてた……魔女に殺されたなんて知られたくないという遺族や会社の意向だそうだ」

「ははッ……信仰の敗北ね」


 笑っては見たものの、私は頭を抱える。


「でも待ってよ……こんな魔女が本当にいるなんて……怖すぎでしょ……!?」

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