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不死者の島

このサントリーニ島が法王庁にとって重要な拠点であるのは、その歴史を見ればなんとなく想像はつく。


そもそもサントリーニ島とはティーラ島とも呼ばれ、五つの島々の総称でもある。

紀元前一六二八年に海底火山が噴火し、かつてそこにあった大きな島はカルデラと化し、辛うじて残った陸地が群島になった。


法王庁はこの噴火前の島がアトランティスだと考えているのだ。


「でも、アトランティスのあった場所っていうのは諸説あるんでしょ?」


 私の読んだ本の中でも、場所を特定できていたものはなかったような気がする。


「現在巷に流布しているのは、大きく分けて地中海説と大西洋説の二つといったところだ」

「それって……結局まだ絞り込めてないって事じゃないの」


 少し意外だった。

 こんなに科学技術が発展しているのに、海の中の事はまだまだ謎という事なのか。


「まぁ、実際には未だにオカルトかぶれの有象無象が好きな事を言ってるぞ? 一番傑作なのはイギリス説だが……あのアトランティスがライミー共の足元に眠ってるとか、ぞっとしないだろ?」

「あら、法王庁あなたたちの事だから、いざとなればプロテスタントなんか喜んで焼くんじゃないの?」


 司祭枢機卿の片眉が上がったような気がしたが、気のせいかもしれない。

 まぁ、そんな内輪揉めになど興味はない訳で。


「……で、ここで正解なのね?」


 古代ギリシャの哲学者プラトンの書き残した伝説の島。

 理想の国家。


 豊かで強大な帝国----。


 ここが、ヘラクレスの柱の向こうにあるとされたアトランティスの、そう----跡地なのだ。


「……で、法王庁の防衛ラインの最前線でもあると」

「そうだ……」


 アンソニーは、延々と広がる海の向こうを見ている。

 その横顔には、海底に沈んだ伝説の帝国に対する感傷などは浮かんでいない。

 

「ふーん、まだ十字軍は終わってないって感じ? 時代遅れも甚だしいわね」

「何とでも言え、腐れ魔女が」


 ミノア文明圏にあって栄えたこの島も、その気候風土によるためか、埋葬した遺体が腐らず、そこから人間を喰らう屍鬼、あるいは不死者の噂が広まったために長らく恐れられていたという。

 それでも中世以降、十字軍後にヴェネツィア人が入植し、丘の上にカストロと呼ばれる城塞集落を築くなどして再び繁栄の時代に入った。


「島のあちこちに聖遺物の気配があるけど、もうその頃からここはアトランティスの在処として法王庁の直轄になってたの?」

「そうだ……と言いたい所だが、法王庁の中でもこの島は対異教徒としての砦とされてきた」


 なるほど。

 法王庁という組織の中では、色々と立場というものがあるのだろう。


 失われた文明の解明に汲々としているよりも、眼前の異教徒の脅威に立ち向かう方が神のしもべとしては相応しい姿だ。


 中世と言えば、法王庁が極度の緊張を強いられていた時代である。


 私が中世生まれだからという訳ではないが、一言で中世と言ってもその期間は長く、それを一概に迷妄だの暗黒だのと評してしまうのは正しくはない。


現在イメージされている野蛮な中世像は、いわゆる暗黒時代と呼ばれている期間である。


この時代は、西ヨーロッパでは小国が乱立し(という言い方もあまり気に食わないが)安定した統治が行われない事で経済の全体的な発展は低調であった。

これに加えて北ヨーロッパの海域ではバイキングによる略奪が起き、物流や治安の混乱が続く。


しかし最も大きな脅威はサラセン人によるイスラム帝国であった。


サラセン人はエーゲ海や地中海沿岸にまで進出し、シチリア島やコルシカ島で略奪を行いながら遂には南イタリアから進軍してローマにまで侵攻する。


これが決定的にヨーロッパ中の人心は乱れさせた----まぁ、無理もないとは思う。


何の情報もない状態で異国の脅威に囲まれていたのだ。

追い打ちをかけるように疫病が流行し、パニック状態が年単位で持続した生活というものがどんな感じか想像してみれば、当時の混乱ぶりはあまり責められるものでもない。


----とは言っても、魔女狩りに至っては、バカじゃないのという感想と、やっぱり人間が人間にやる事じゃないし、狂気の沙汰であるという感想しか抱けない訳だけれど。


以上が、中世暗黒時代の概要だ。

こうしてまとめてしまうと、中世生まれの私ですらゲンナリする時代である。

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