【クリスマス特別編】 サンタクロースがやって来る!
ここ最近、メリッサの様子がおかしい。
「……ねぇ、付いて来るなとは言わないけど、袖を引っ張るのはやめてくれない……?」
「じゃあスカートのとこならいい?」
あのねぇ、と言いかけて、私は額を押さえる。
これまでは私の後ろをパタパタと追いかけて来るだけだったのが、一昨日辺りから私の服を掴んで離さなくなってしまったのだ。
薬草を摘みに温室に上がる時もくっ付いて来るし、お風呂に入ろうとしてもドアまでくっ付いて来る。
さすがに鬱陶しいのでドアの外で待たせていたら、開けた途端にまたしがみ付いて来た。
気付かないうちに何かの呪いを掛けてしまったのかとも思ったが、魔女ではない私に魅了の力などはないはずだし、そもそも大魔女モルガナのクローンがそんなしょぼい術にかかる事もないはずだ。
「……一体どうしたっていうの? 何か怖い事でもあったの?」
私の問いに、メリッサは小さく頷いた。
「何が怖いの? お化けでも見た?」
「ううん、違う」
とりあえずこれ以上袖口が伸びるのを阻止すべく、手を離させる。
「じゃあ、何が怖いの?」
「……サンタクロース」
すぐそばにサンタクロースが来ているとでも思っているのか、びっくりするほど小さな声だった。
「……サンタクロース?」
「うん、クリスマスに来るんでしょ?」
私はメリッサの前にしゃがみ込んだ。
「どうして怖いの? サンタクロースって、プレゼントをくれるんじゃないの?」
「違うよ……サンタクロースは、クリスマスに魔女を捕まえに来るって、アンソニーが言ってたんだもん」
なるほど。
やっぱりあの男はびっくりするほど児童教育には向いていない。
「あのね、サンタクロースはね、煙突から入って来て悪い魔女をトナカイの餌にするんだって……そんでもって、あまり悪くない魔女は七面鳥の丸焼きにして食べちゃうんだって……!」
「あー、ええと、うん……それは怖いわね……」
大体事態を把握できたので、私は立ち上がり、なるべく優しい声で言う。
「でも、ここは地下だから煙突もないし、サンタクロースは入って来られないわよ?」
「そんな事ないもん……サンタクロースはいまやネットミームと化しているから回線さえあればどんなところにも侵入して来るって、アンソニー言ってた」
(……ん?)
一瞬背中に変な汗を掻いたが、私は平静を装って少女に笑いかけた。
クソ司教とはちょっと話をしなければならないようだ。
「ちょっとラボ借りるわね、入口まではちゃんと一緒に行ってあげるから……うん、だからね、袖を引っ張るのはやめて……」
それから数日後の朝。
カーラβが重たそうに運んできた送り主不明の紙箱の中には、ふかふかの大きなパンが入っていた。
干した葡萄やプラムが入っていて、切り分けたナイフを拭って舐めるとかなり甘いので、パンというよりはケーキに近い感じだ。
「クリスマスって美味しいものが食べられて楽しい日なんだね! あと、なんかこんなの付いてた……読んで?」
いつもの椅子に座ってパンを貪っていた少女が、二つ折りの小さなカードを差し出す。
「そういうのは危機管理の点でも普通は食べる前に読むものだと思うわ……」
開くと、万年筆でラテン語が殴り書きがしてあった。
蚯蚓がのたくったような字というものを久し振りに見た気がする。
「……悪い事をしない魔女はサンタクロースに次のクリスマスまで生き延びるチャンスがもらえる……ですって」
「それだけ?」
つまらなそうな顔になって、メリッサは最後の一口をぱくりと頬張った。
とても美味しそうに食べてはいるけれど、多分それは私の分だ----。
「そうね、あとは……聖夜には主に感謝してせいぜい祈れクソ魔女ども! って書いてある」
「……ふーん……それにしてもこのパン美味しいけど、誰がくれたんだろ?」
椅子の背に止まっていたカーラβが、カァと鳴いた----。




