神とはなにか
私達は生垣に沿って曲がりくねる小道を進む。
普段私達が出撃に使うのとは違う、人が一人通るのがやっとというくらいの狭さだ。
聞こえるのは、規則正しく砂利を踏み締める音。
それに加えて、どこからか水の音が微かに聞こえる。
中庭の外にいくつもある噴水のどれかだろう。法王庁にはやたらと噴水があるのだ。
白い布靴が立てるざくざくという音を聞きながら、私は周囲の様子をそっと窺う。
(……誰もいないみたいね)
私とアンソニー以外の気配はない。
本当に一人で来たようだった。
(この男、用心深いのか、めんどくさがりなのか、なんだか分からなくなってきた……)
だが、やはりここは結界の中なのだ。
深夜の庭に垂れ込める濃密な気配のどこにも、生き物の気配は感じられない。
(アネモネでも、ここにはきっと入って来られない……)
確かに、夜の中庭は、散歩にはもってこいだ----誰にも聞かれたくない話をする張り詰めたひとときを、散歩と呼べるのかどうかは知らないが。
「……この辺でいいだろう」
司祭枢機卿は、小さな聖母像の横で歩みを止める。
中庭の結界を形作る聖遺物の一つだが、こんなに近くで見たのは初めてだ。
「……それ、私には効かないわよ」
「構わん……お前が逃げようとしたら殴るのに使える」
この男は、たまにバカみたいな事を真顔で言う。
「へぇ、聖職者が物理攻撃に頼るの? そういう時こそ神の奇跡を見せるべきなんじゃないの?」
「……お前は神をなんだと思ってるんだ?」
呆れて話にならないといった顔で、アンソニーは溜息を吐いた。
「神とは代数みたいなものだ……説明を付けられない物事に、とりあえず説明を付けるために存在しているんだ」