表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/381

散歩の始まり

 夜明け前の温室は、草木の静かな呼吸に満ちている。

 

 私はランタンの灯の中で庭師を待っていた。

 外は暗く、星も見えない。


 世界最小とはいえ、千人近くの人口を擁する国土の中にあるとは思えないほどに、この中庭は外界から閉ざされている。


(……この上だけ、空がないみたい)


 古代の悪神が、ポッカリと大きな口を開けているかのような闇。

 『神の加護』によってもたらされた、欠落----。


 私は、この場所が嫌いではない。


 ここにいれば、人間だった頃に見ていた星を目に入れずに済む。

 私だけがまだ朽ちる事もできずに生き永らえているという事実を、思い出さずに済む。


 どんなに祈っても、もう二度と時間は巻き戻せないという事実を認めずに済む----。

 

 やがて、小さな灯が一つ、こちらに向かって近付いて来るのが目に入る。


 私はランタンを掲げ、ドアの前へと歩みを進めた。

 小さな灯はやがて人影を映し出し、司祭枢機卿の顔を浮かび上がらせる。


「そこで待ってろ! 絶対に動くなよ!?」


 分厚いガラス越しに鍵を取り出して私に怒鳴ると、封印の解放にしばし没頭する。


 ガシャ……ン。


 閂が外された。

 冷たい夜風が吹き込み、私の髪と草達が、さわさわと揺れる。


「……私の後から付いて来い」

「導線はないの?」


 私が尋ねると、アンソニーは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「私がプライベートの散歩に部下を招集するほど寂しい人間に見えるか?」

「貴方まさか、魔女に喰われた司祭枢機卿として聖人になる事にしたの?」


 しばしの睨み合いの後、私と司祭枢機卿は無言で中庭を歩き始める。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ