世界も私も、そう簡単には変わらない
(まぁ、確かにあの頃の私は、科学技術がどんどん発展すれば人間の生活が楽になって……貧富の差とかも消えて皆で健康で幸せな生活を送れるかも、なんて考えてたけど……)
でも、何百年経っても、この世界は変わってはいないのだ。
機械が何でもやってくれて、AIに質問すればどんな事でも即答が得られるという夢のような進歩がもたらされているというのに----この世界で、私はまだ、目をしょぼつかせて、一つの言葉を調べるために何時間も費やしている----。
「楽に幸せに生きるって、やっぱり天国にでも行かないと無理よね……って、それってつまり生きてないって事かぁ……うーん……幸せってなんなんだ……」
そうは言ってみるが、こうしている時間も悪くはない。
知識と知識が繋がる瞬間に生まれる驚きの感情が、シナプスが形作られている瞬間の電気的な反応に過ぎないのだとしても、今の私はそれを悦びとして知覚している。
(なんでだろう……本を読むだけで自分の世界が広がっていくなんて感覚なんて、とっくに失くしたと思ってたのに……)
疲れているのに、外はとっくに白み始めている時間だというのに。
私はそれでもまだ新しい頁を捲ってしまう。
(こうしてるの、すごく……楽しい……)