ドクター
今や企業が国家よりも資産を持っている事は珍しくないのだ、とカーラは言った。
「国家が膨張して他の国家に流入したり、あまつさえ飲み込んでしまうような事態は国際法で固く禁じられています。でも、企業がその拠点を増殖させて国家、あるいは世界を覆う事は、むしろ歓迎されているのです」
「……世界って、私が知っている世界よりもずいぶんと狭くなっちゃったのね」
あまりピンとこないまま、私は尋ねる。
「という事は、つまり、ラボはその製薬会社の一部だったのね」
「そうです。法王庁からは資金とサンプル及びデータの提供が行われています」
サンプルとは、モルガナの遺伝子という事なのだろう。
使うのが魔女とはいえ、生き物の複製を行うなどというのは自然に反した行為だ。
法王庁が表立って行う訳にはいかないその計画を、一企業の活動という名目で進められるというのは、双方にとって大きな利益になる。
メリッサの背後には、多分、私が思いも及ばぬような思惑が渦巻いているのではないだろうか。
「ラボは、ドクターがいるから嫌い」
ぽつりとメリッサが呟いた。
「ドクター?」
私が聞き返すと、少女は少し頬を強張らせて頷く。
「そう、私をデザインした人の事を皆そう呼んでるの」




