喪失
しかし、私はふとある事に気付いた。
『ねぇ、外国の言葉は分からないにしても、ラボである程度の知識は貴女が教えたんでしょ? タワーの設置の時とかだって、あの子、説明書を読みながらちゃんと一人でやれてたわよ……?』
メリッサは、見た目よりはかなり幼い言動と感じる時はあるが、私にはできないような作業をこなしたりと、当時の年齢の私よりも頭は格段に良いように思える。
だからこそ不思議なのだ。
『あぁ、あの説明書は全部イラスト……図解で説明してあるんです』
『え……あの分厚い説明書って全部図解なの!?』
驚く私にAIは畳み掛ける。
『あの子の前の個体は英語とラテン語は一通り読み書きできるようになったのですが、霊素拘束解放の実験が失敗して破棄されました』
『……じゃあ、貴女は何度も……メリッサを育てて……それから、その……亡くしてしまったのね……』
こういう時にかける言葉があるはずなのに、私は一つも思い付けない。
(歯痒い、ってこんな時にも使うのかな……?)
自分が人間ではなくなってしまったと実感するのは、何度経験しても慣れない。
『その事に対して私には辛いなどとかいう感情はありません』
カーラの口調は、変わらない。
『あくまであの子は生体兵器なのですから』