箒星
『そして、培養された細胞はもうストックがない……だったわよね?』
バカみたいだ、と私は胸の奥で呟く。
あの世界大戦から八十年も経っているというのに、何一つまともに進歩してないじゃないの、と。
『その結論が、私?』
『そうだ』
メリッサのカップはもう空だ。
僅かな茶葉の粉が、薄く尾を引くようにして底に溜まっている。
まるで箒星のようなその模様を眺めながら、私は小さく呟いた。
「ここの連中は女の子一人まともに育てられないの?」
皮肉というよりは、込み上げて来た感情が図らずも言葉になったという表現の方が、きっと近い。
『科学技術の粋を集めたラボであの子に施せるのはメンテナンスだけ……なんともお粗末な話じゃないの』
『何とでも言え。とにかく次の出撃までには使えるようにしておく必要があるんだ』
遠い昔に私が夢見た未来は、ここにはない。
「さぁ、お嬢様こちらへ」
私が声をかけた途端、メリッサはソファから滑るようにして床に降りた。
箒星だ、と私は思う。
この少女は、私という閉ざされた世界に飛び込んで来た白く輝く小さな箒星なのだ。
その軌跡が導く先に何があるのか、それは私には想像もつかないけれど----。