変貌
メリッサのラボからの帰還と共に、殺風景だった地下の空き部屋には毛足の長い絨毯が敷かれ、猫足の家具が(私によって)運び込まれた。
台所にはティーセットや茶葉の缶や、よく分からない器具が(私によって)運び込まれ、浴室にもよく分からないボトルやアヒルの雛に見えるよく分からない物体が(これはメリッサ自身の手により大事そうに)運ばれた。
物が増えるというだけでこうも変わるのかというくらいに、地下室はたった一日で変貌を遂げた。
もちろんその中には、私のこのなんとも間抜けな格好も含まれている。
『それにしても、アンソニーが貴女をすぐにここに移したのは驚いたわ』
念話モードに切り替えて、私は肩のAIに話しかけた。
メリッサは相変わらず嬉しそうにチョコレートを貪っている。
『でも、メンテナンスの時以外はラボに戻れないなんて、ちょっと心配じゃないの?』
『いえ、提案したのは私の方ですから』
周波数を調整してもらったとかで、地下深くでもこうして私とカーラは会話ができるようになった。聞きたい事がある時なども、わざわざタワーの前まで行かないで済むようになったのはありがたい。
ただし、そうなった事で弊害もあるのだが----。
『私、猫が苦手なのですが、最近ラボに猫が出入りするようになってしまって、それで……』
『猫が苦手って……貴女って本当にカラスみたいなのね』
さすがにそこまで真似をする事もないだろうに、と私が苦笑いした途端、
『いや、ソイツは本物のカラスだぞ』
男のダミ声がいきなり脳内に響き、私は銀盆を取り落としそうになった。
『ちょ……ッ、びっくりさせないでよ! 他人の家に入る時はノックくらいするでしょ?』
『お前は庭の石をひっくり返す前に虫共に挨拶するのか?』
相変わらず無礼が司祭服を着たような男だ。
メリッサの監視のためらしいが、地上からカーラβを中継して念話を飛ばして来るので、絹のような羽を持つ美しい鳥が品のない喋りをするという、なんとも残念な絵面を見せられる事になってしまったのだ。
『……まぁ、いいけど……それより、さっきの話はどういう意味なの?』
『どうもこうも、カーラにはグリーンランドで撃たれた白いワタリガラスの脳を使ってる』
既にこの時点で、私の頭の中には疑問符が燕のように飛び交い始めていた。