小さな嵐
「私が貴女を好きになるかどうかなんて、分かんないわよ」
乱れてしまった髪を手櫛で整え、私も椅子から立ち上がる。
「それに……そんなに好きになってもらいたかったら、それこそ『力』でも何でも使えば簡単にできるんじゃないの?」
言ってから、さすがにこれは言い過ぎたかも、と少し反省する。
(あー、マズったかな……子供だし、どこまでが本気か分からないとはいえ、好意を持ってくれている相手に言うべき言葉じゃないわよね……)
思った通り、少女は呆れたような、憐れむような眼をして私を見上げた。
「……そんなんで好きになってもらっても嬉しくなんかないでしょ?」
突然の正論である。
これでは私が単なる悪くて嫌な大人のようだ----まぁ、半分くらいは合ってるけど。
「と、とにかく……あまり大人をからかうものじゃないわよ……っ!」
私は少女に背を向ける。
言いたい事はこんなんじゃないのにと思いながらも、ではどんな態度を取れば良いのかが見当も付かなかった結果、私は部屋に戻る事にしたのだ。
(……ダメダメだな、私)
こっそり吐き出した溜息と共に扉を開けた途端、
『お取込み中失礼します!』
扉の間から、白いカラスが翼をバッサバッサとはためかせながら乱入、いや、入室してきた。
「カーラβだ! いつものやつ持ってきてくれたの!?」
メリッサが両手を上げて飛び跳ねている。
秒速で機嫌が変わるのは掴みどころがないというか、正直羨ましい。
『温室の入口に置いてあります』
「やったぁー!」
少女は長々と歓声を上げながら、そのまま廊下へ走り出て行った。
アンソニーも来ているのかと一瞬身構えてしまったが、他に人の気配はない。
「いつものやつ、って?」
『先日お話ししたご褒美のチョコレートですよ、貴女の分も用意してあります』
カーラβは、ついさっきまで私が腰かけていた椅子の背もたれに着地して羽繕いを始めた。
何度見ても、白いカラスという珍しさ以外は、普通のそこら辺にいるような鳥の仕草だ。
『それと私の止まり木も一緒に搬入されていますので、寝る前に下ろしてこちらのラボに設置をお願いします』
「……はい?」




