おあずけ
(あー、なんか……もう……これ、どうしよう……?)
私はかつてない困惑を覚えていた。
しかし奇妙な事に、この状況が嫌という訳でもない。
くちゅ……んちゅ……ッ。
メリッサとのキスはまだ続いている。
(うん、嫌じゃない……むしろ気持ちいいかもしれない……けど、これって、絶対……まずいよね……?)
感じまいと思っていても、唇から広がる甘ったるい痺れが、背筋を伝わり、爪先までを満たしていくのが手に取るように分かる。
それだけではない。
椅子の上で抱き付かれているうちに、互いの柔らかな部分と部分は服越しにぴったりとくっつき合っていた。
(頭も、身体も……すごく熱い……私、どうしちゃったんだろ……?)
体温を共有し、まるで生まれる前からそう決まっていたかのように、早鐘のような鼓動までを重ねるようになって----いつしか私はメリッサの舌を受け入れていた。
「ちゅっ……ん……ッ……ちゅぱ……ッ」
私達は息継ぎでもしているかのように、互いに唇を付けたり、離したりを繰り返す。
そのたびに水音が響き、頬が火照る。
(女の子同士で、こんな事してるのに……なんでだろう? この感じ……すごく、安心する……)
心臓は高鳴っているのに、こんなに安らいだ気持ちになれるのが不思議で堪らない。
やはりアンソニーの言葉通り、魔女と魔女は惹き合うのだろうか。
この高揚感と幸福感がその証なのだろうか。
考えても考えても、正解は出て来ない。
(私は魔女のはずなのに……ずっと生きてきた割には何も分からない……)
唇を啄まれながらそんな事をぐるぐると考えているうちに----。
(やっぱり私は、なりそこないなんだろうか……?)
気が付けば、今度は私がぼろぼろと涙を流していた。
「えっ? アイリスってば、どうしちゃったの……?」
頬を伝う涙に気が付いたのだろうか、メリッサが、驚いた表情で私の顔を覗き込む。
「……ごめ……ッ、なんでもない……」
泣き顔を見られまいと、私は両手で目元を拭った。
「なんでもない……大丈夫よ……」
不意に虚脱感に襲われて、私は椅子の背もたれに身を投げ出した。
しがみ付いてきたメリッサの顔が、すぐ上にある。
「怒った……?」
「あのねぇ、ここまでしておいて今更言ってるのよ……」
つい小言が口をついて出てしまう。
「あー、やっぱり怒ってる……!」
ひょいと身を起し、床へと降りた少女は、今の今まで私の唇を蹂躙していたとは思えない無邪気さで、おどけた仕草をして見せた。
「アイリスってば、こわーい」
「あ……っ、あのねぇ? 私は真剣に……!」
そう言いかけて、言葉が続かない。
「私は……」
「……いいよ、続きは今度にしよ?」
黒髪の少女は微笑んだ。
「でも、アイリスにも絶対に私の事好きになってもらうからね」