柔らかくて、あたたかいもの
「ほらぁ……っ、お口開けて……」
「んっ、む……ぅ……?」
メリッサの唇は、さっきよりも強引だ。
むにむにと、私の唇の上を、なぞるような、何かを考えているような動きを始めた。
「ん……ッ、私、いいなんて一言も……んん……ッ!?」
抗議の声は、すぐに封じられてしまう。
ちゅぱっ……くちゅ……っ……。
「ん……ッ……アイリスぅ……もっと、はぁッ……ぎゅって、して……」
私の首の後ろに掌を当てるようにして、メリッサはその小さな身体ごと押し付けて来た。
身体と身体が密着するにつれ、互いの体温が高まっていくのを、多分、私も少女も感じている。
んッ、ちゅ……っ。
相変わらず蕩けそうなくらいに柔らかい唇に、私の唇は、優しく、しかし強引にこじ開けられていく。
くちゅ……むちゅ……っ。
ゾクゾクするほど艶かしい水音が耳朶を打つ。
感じた事のない甘い浮遊感が、私をすっぽりと包み始めていた----。
「んッ……こんなのッ……はぁッ、ダメだって……ば……」
それでも私は弱々しく首を振った。
このままだと、今までに感じた事のない何かを感じてしまいそうだという、恐れに似た予感があった。
(こういうのって、普通はもっと違う相手と……違う状況でするものなはず……よね……?)
口付けとは、もっと神聖なものであるはずだ。
いや、そうじゃなくて----そもそも女の子同士でこんな風に抱き合って唇を重ねている事自体が、まずはおかしいのであって----。
(やっぱり、こういうのはまだ、この子には早すぎ……)
「んッ、はぁ……ッ、ダメじゃないよ……」
まるで私の思考を読んだかのような言葉に、ドキリとする。
「なんでダメなの……? こんなに、はぁッ、幸せな気持ちになるのに……ねぇ、ダメなんかじゃないよ……?」
少女の言葉に、私はもう反論できなかった。
「こんなにあったかいのに……ドキドキするのに……アイリスは、ちゅーが嫌いなの……?」
少女は唇を離し、私を見上げた。
その唇は、二人分の唾液で濡れている。
「わ……私は……」
少しでも大人らしい言葉を探したが、ぼやけた頭の中をどれだけ探しても、少女を踏み止まらせる事のできそうな言葉は見付からなかった。
このままでは完全にこの少女に主導権を握られてしまう----というより、もう既に握られている。