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約束という名の呪縛
(こうやって見ると……本当に、まだ子供じゃない……)
柔らかで、滑らかで、透き通った頬。
指先で突いたら崩れてしまいそうな、可愛らしく尖った小さな鼻。
だけど----桃色の薄い唇は、そこだけが別の素材のように濡れ光っている。
「約束……したのに」
真っ黒な潤んだ瞳が、じっと私を覗き込んでいる。
見れば見るほどに吸い込まれそうな漆黒に、背筋が震え、鼓動が早まるのを感じる。
井戸を覗き込んでいる時の、身を投げ出したくなるような不可思議な衝動を必死に抑えながら、私は少女を見詰め返した。
「……忘れちゃったの?」
そんな約束は忘れた、と、一言返せばいい。
今の私は約束という言葉の呪縛に囚われているだけなのだ。
頭では分かっているはずなのに、私の咽喉からは遂に意味のある言葉は出て来てはくれなかった。
「あのね……私……アイリスと、ちゅーってするのが……好き」
長い睫毛に涙を乗せたまま、真剣この上ないという表情で囁かれて、私の鼓動はさらに早まる。