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神罰の代行者

 今夜もまた、私は毒の草を食む。


 ドクゼリ。

 コルチカム。

 クレマチス。


 どれもパチェリが温室を訪れた時に私が摘んでいた花だ。


 例えば、コルチカムはサフランに似た薄紫の花だ。

 ギリシャ神話によれば、王女メディアの出身地コルキスで多く咲いていたという。

 体内に毒が入ると苦しみながらゆっくりと死んでいく事で有名だが、その間意識はずっと保たれている----『永遠』という花言葉に相応しい地獄の苦しみを運んで来る花だ。

 

 『なるべく激しく長く苦しませ、確実に命を絶つ事ができる薬が欲しい』


 彼の要望は、直截的だったが、同時に難問だった。


 いつ投与されたのか分からないよう、遅効性である毒。

 そして、解毒ができず、いくつもの強烈な苦痛を死の瞬間まで同時に与えられる毒。

 それが明らかに神の下した罰であると見て分かる毒。


 まるで神の罰のような毒を、パチェリは望んでいた----。


 確かに作る事はできる。

 だが、それには実験と、そして何よりも時間が必要だ。


 私は、パチェリに一つの提案をした。


 毒草を食べる者の血は、毒薬としても解毒剤としても重宝されている。

 だから、私の血もまた、毒薬であり解毒剤なのだ。


 その証拠に、と私は言った。


『貴方はこのドクゼリを食べても、平気よ』


 私は指先を噛み、血を滴らせた。


 ぽたり。

 ぽたり……。


 白い小花が赤く汚される。


『……さぁ、神の毒が欲しいのなら、これを食べてみて』


 差し出したその毒花に向かって、国務長官はゆっくりと手を伸ばす。

 その顔には、恐れも、疑いも、何も浮かんではいなかった。


 そう----何も。


 神罰の代行者は躊躇いなくドクゼリを食み、咀嚼し、そして飲み下す。


『……ありがとうアイリス、美味しかったよ』

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