相似と相違
真鍮の蛇口から勢いよく流れ出る井戸水は、今日も冷たい。
「ねぇ、上でずっと何してたの? もう、待ちくたびれちゃったんだからぁ……」
私が地下に戻ってから、メリッサはずっとこの調子だ。
私のワンピースの袖を掴んで離さなかったり、かと思えば、私が歩くたびに後ろを付いて回る。
彼女なりに何か不穏な空気を察しているのだろうかとも思うが、単に空腹を募らせただけなのかもしれない。
子供の考えている事は、私にはやっぱり分からない。
「……もしかして、アンソニーとケンカしてたの?」
少し声を潜めるようにして聞かれて、私は苦笑した。
「ケンカなんかしてないわよ」
「ほんと? ほんとにケンカしてない? 叩いたりしてない!?」
どうやら心配してくれているらしいが、私が叩く方なのはちょっと納得がいかない。
「……ケンカもしてないし、叩いてもいないわよ」
「ならいいんだけど……」
何か考え始めた少女を横目に、私は水洗いの終わった籠の中の花を、皿に盛る。
これから私の血になり、そしてメリッサの命に変わる毒の花達----。
白いドクゼりの花に付いた水滴が、蝋燭の灯にキラキラと光っている。
「アイリスは、もっとアンソニーと仲良くすればいいのに」
「いや、アレは仲良くとかそれ以前の話だから……」
私の言葉に、少女は首を傾げた。
「そうかなぁ? アイリスとアンソニーって、なんだか似てる気がする」
「ちょっと……っ、あんな性格悪いオヤジと私のどこが似てるっていうのよ……?」
思わず出してしまった大声に、メリッサは「ほらね」というような顔をして見せる。
「そうやってすぐ怒るところとか」
「……ッ!」
的確に痛い所を突いて来る様子は、今度は大人顔負けだ。
(本当に、分からない子だ……)
テーブルに皿を置く。
私の指先は、まだ冷たい。
「それじゃ、ごはんにしましょう」




