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取引
「……パチェリの話、詳しく聞かせてくれ」
その声からは、もう怒気は感じられない。
それどころか、何かを受け入れたかのような諦観じみた響きすら帯びていた。
「お前は、多分嘘は言っていない」
「……ええ」
男の下げている十字架が鈍く光っている。
「嘘を吐いたら地獄に落ちるって教わったもの……私、見ての通り信心深いのよ」
男は、私の言葉を聞いて、声を出さずに笑った。
笑うと目尻に細かい皺が出来るようだ。
「ただ、パチェリの話をする前に、私も聞きたい事がある」
「……何を知りたいんだ?」
私は言うべき事を頭の中で素早く整理した。
廃教会にジェヴォーダンの獣を放ったのは、間違いなく魔女だ。
人を獣に変える魔女を私は知っている。
だが、その魔女は、法王庁の管理下にいて、そして死んだ。
だとしたら、今トゥーレ協会にいる魔女は、一体何者なのか----?
「……今法王庁に残っている魔女の灰が、何人分なのか教えて」