ヒトラー暗殺計画
「なるほど……じゃあ聞くけど、法王庁によるヒトラー暗殺計画が、そのオカルトマニアの与太話とやらだとして、地下から出られない私がどうやってそれを知ったの?」
「……くッ」
私の質問に、アンソニーは小さく呻いた。
「それにね、私……オカルトってあまり信じない性格なの」
「いや、そこはお前……魔女なんだから信じておけよ……」
額に汗を浮かべながらも突っ込みを入れて来る。
こういう図太さこそが指揮官には必要とされているものなのだろう----いや、実際はどうなのか知らないけど。
「いいえ、魔女だろうが何だろうが、私は科学というものを信じてる」
これは本当だ。
迷信だの神秘だのは、もう、うんざりなのだ。
「……だからこそあの時、パチェリには協力してもいいと思ったの」
そうだ、あの時も、私はこうして薬草に囲まれて立っていたのだ---。
エウジェニオ・パチェリ。
秘薬の効力を自分の身体で試してみたいと言ってやって来た奇妙な男は、それまで会った聖職者達とは全く異なっていた。
信仰心を体現したかのような節制を極めた身体。
香を焚きしめた司祭服。
胸元の大ぶりの十字架。
その姿はまるで絵から抜け出た聖人のようだった。
なのに、その口から最初に出て来たのは、まるで悪魔のような言葉だった。
『殺したい男がいる……なるべく激しく長く苦しませ、確実に命を絶つ事ができる薬が欲しい』