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司祭枢機卿の困惑

「なんだ、昔の事でも思い出したのか?」


 急に黙り込んでしまった私に、司祭枢機卿は悪鬼のような顔を向ける。

「たかだか魔女の同士討ちくらいで何をそんなに……」

「……そうじゃない」


私は思わず呟いていた。


「そうじゃない……」


「そうじゃない、って……いや、だってそもそもお前が作戦失敗の黒幕はパチェリだって言い出したんだろう……? 違うのか? え? いや、何の話だ……?」


 何を言われたのか理解できないという顔で、司祭枢機卿は舌打ちをした。

「いいかクソ魔女? 何度考えようが状況からしてベルリンの件の黒幕は、パチェリだ……ッ!」

 聖職者にあるまじき口汚さで元法王を罵り続ける。

「あの男はなぁ、最後の最後でナチスに寝返ったんだよ……! おかげで法王庁がどれだけの非難と怨嗟を浴びてきたのか……魔女のお前に分かるのか!?」


 叩き付けられた言葉を、しかし私は返さぬまま胸のうちで反芻する。


 八十年前の戦争で、助けられるはずの数百万の人々を助けられなかったという責めを、今もなお教会はは背負い続けているのだ。


 そうだったのか、と私は思い、そうなのだろうな、と得心した。


 二度の大戦で法王庁が抱え込んでしまった闇は、魔女狩りとは比べもつかないほどに大きく、深く、絶望的なものに育ってしまっているのかもしれない。


(ありもしない罪で火炙りにされた側からすれば、そんなの知った事ではないけど……でも……)


 それでも----私はこの怒れる男に対して異を唱えずにはいられなかった。


 私は首を振り、目の前の男に告げる。

「違う……間違っているのは、貴方よ」 


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔、というのはこういう顔なのかと感心してしまいそうになるくらい見事に、司祭枢機卿の目は丸くなっていた。


「生き証人が必要と言うのなら……私がここにいる」

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