法王達の系譜
法王ピオ十二世は世界大戦中に在位していた法王だ。
言ってしまえば、歴代で五十何人目だかの私達魔女の『飼い主』である。
だが、意外かもしれないが、その『飼い主』であった彼に私は悪い感情を抱いてはいない。
法王と魔女の関係は、その時々の情勢によっても、法王本人の性格によっても千差万別だ。
法王庁が魔女狩りを行っていた頃は、法王は魔女に対する刑の執行者以外の何者でもなく、双方の間には憎しみの感情以外は存在しなかった。
時代が下り、科学が発展の兆しを見せ始めると、教会世界を支えていた価値観も多様性を持ち始め、魔女を単なる人外ではなく知性を持った存在として処遇するべきという主張も法王庁内で現れるようになった(ただし、代替わりで以前より待遇が悪くなるような事もザラにあったので、私達としては誤差の範疇であったが)
更に時代が下ると、気が付けば教会は世界における絶対的な権威を失いつつあった。
法王庁は限りなく広い『世界』の裾野にいた魔女の力と知恵を使う事でその権威を維持した。
『魔女が振るう法王の剣による教義の守護』
つまりは、魔女を教会の一部として使役し始めたのである。
これに対し、魔女が求めたのは----なるべく安らかな死であった。
今更解放されて外の世界に出ても不死のまま彷徨うくらいなら、出撃を重ねていつ果てるとも知れぬ寿命を削り続けたいというのが大半の魔女達の望みであったのだ----私とモルガナ以外は。
話を戻そう。
ピオ十二世----いや、私達魔女は歴代法王をその本名で呼んでいたので、主にパチェリと呼ぼうと思う。
パチェリは、歴代の法王の中で最も私達魔女を使役し、そして最も保護した法王であった。