存在価値
「へぇ……そう」
私の声は、この時はまだ平静だったと思う。
別に今更咎める気はない。
機械扱いは最初からだし、『T』(トゥーレ協会の隠語だ)が先に攻撃を仕掛けてきたというのも本当なのだろう。
「で、合格だったの?」
「……いや、まだ完成品には程遠い」
アンソニーは司祭服の襞の間に手を差し込むと、あの平べったい円盤を出して私に示した。
「Gimelクラスの魔術式を開放しただけであのザマだ」
Gimelとは数字の3の事だ。確かに魔術式としては初歩クラスなのだろう----魔力のない私が言うのも変な話だが。
「一週間のメンテナンスというのは、正直使い物にならん」
目の前に投げられた円盤を、私は拾い上げた。
円盤には小さくヘブライ文字が刻まれているのをそこで初めて私は知る。
「分かってるとは思うが、数字が大きくなればなるほど反動も大きくなる……したがって、アレの身体には負荷が増す」
(そうか、そういう事だったのか……)
司祭枢機卿の言葉を聞きながら、私は元素拘束を解かれた時のメリッサの姿を思い返していた。
光り輝く砂と化した少女は、文字通りその身を削ってモルガナを受肉させていた。
魔女を復活させるためだけに用意された少女もまた、結局は私と同じ贄だったのだ。
モルガナのための----いや、法王庁の、教会のための----。
神のための、贄。
気が付くと私は籠を両手で抱き締めるようにしていた。
「……連続使用に耐えられる身体でなければ、存在価値はない」
「つまり……」
司祭枢機卿は冷たく言い放つ。
「そうだ……試験は、失敗だ」




