表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/381

余波

「メリッサ!」


 血の海の中、魔法陣のあった箇所だけが綺麗に円になって残っている。

 その上に、少女は一糸纏わぬ姿で仰向けに倒れていた。

 リボンの解けた長い黒髪が、まるで広げた扇子のように見える。


「メリッサ……っ、ねぇっ、大丈夫?」


 駆け寄って名を呼ぶが、少女はピクリとも動かない。


「……い、生きてる……のよね?」


 口元に耳を近付けると、微かな寝息が聞こえる。

 見た限りでは怪我をしている様子もない。

 元素と霊素の拘束を解かれる前と同じ姿だ。


(中身はともかくとして、ちゃんとメリッサに戻ってる……)


 私はホッとする。


(いや、待って……ここで私が安心するのって、おかしくない……?)


 今度は何故か無性に腹立たしくなって、わざと声を張り上げる。


「ねぇ!? いつまで寝てるの!? 撤収するわよ!?」


 それでもやっぱり、少女は目を覚まさない。

 私は一人、唸ってしまう。

 

 起きない以上、誰かが抱いて帰らなければならない。

 そして、この廃教会にいる人間は(魔女だけど)私しかいない。


「冗談じゃないわよ、私だって腕、怪我してるんだから……もぅ、いい加減に……」


 少し躊躇してから、私は白く小さな肩を揺さぶった。

触れた箇所から、砂のように崩れてしまったらどうしよう、などと、子どもじみた怯えを密かに抱きながら。


「ほら、起きてってば……」


 パラ……。


 不意に何かが手に当たって、私は反射的に天井を見上げた。

 

 パラパラ……パラ……ッ。


 小さな石つぶてが、礼拝堂の天井のあちこちから落ち始めていた。

 それは大理石の欠片だった。


 モルガナの魔術の発動に、古い天井や壁は耐えられなかったようだ。

 廃教会は、その寿命を急速に終えようとしていた。


「帰るわよ……ッ!」

 私は少女に上着を被せると、そのまま抱いて立ち上がる。

「イタ……っ」

 胸元の傷口から新しく血が滲んだ気がするが、痛みは我慢できる程度だ。

 両腕に抱え直すと、すっぽりと収まった身体から規則正しい鼓動が伝わって来る。


(今はさっさとここから撤収するのが先決ね)


 この子が起きようが起きまいが、私が心配する事はなにもないのだ。

 ただ一つの気掛かり以外は。


 ランドセルと端末機と蝙蝠傘を担いで、私は溜息を吐く。


「参ったな……起きてくれなきゃご褒美があげられないんだけど……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ