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絨毯

 緩やかに波打ちながら足首まで届く、豊かな金髪。

 炎をそのまま宝石にしたかのような、強く輝く緑色の瞳。


 幻でも妄想でもない。


 私の女主人は、そこにいた。

 八十年という時の流れなど、まるでなかったかのように----。


「見なさい」


 艶然と微笑みながらそう言うと、モルガナは両手を胸の前で結ぶ。

 たちまち魔法陣の縁から紫の花を付けた草の群れが生じた。


(あの花は……!)


 僧衣に付いたフードを思わせる花の形は、一度見たら忘れられない毒々しさだ。

 草は魔女の腰の高さまで生い茂ったかと思うと、私達を囲む獣達にその先端を向け全ての花を打ち込んだ。


「アォォッ、グワァァァッ!?」


 獣人達の巨体は弾かれたように跳ね上がり、ビクビクと痙攣し始める。


「アォォォッ! オォォォォ……ンッ!」


彼らの体表は、まるで被毛の下で無数の虫が蠢いているかのような気味の悪い動きを見せながら、不自然な伸び縮みを繰り返していた。


「オォウ! オォォォ!」


 魔獣達は断末魔の声を上げていた。

 掻き毟るようにして頭を抱える者、天を仰ぐようにして咆哮する者----。


 まるで地獄篇の挿絵のような恐ろしい光景は、しかし、実際には数秒も続く事はなかった。


「ウギャァァッ……!?」


 耳をつんざくような絶叫と共に彼らの身体は大きく膨らみ、内部から弾けた。


 バシュッ! ビシャ……ッ!

 グシャッ! ブチュッ!


 ひび割れた大理石の壁に、床に、血と臓物がぶち撒けられる音が次々と響く。

 気が付けば、床の上でもがいていた獣達も不定形の小山と化して動かなくなった。


 残ったのは、噎せ返るような匂いを放つ、深紅の床。

 まるで女王のために誂えた絨毯のような----。


「……教えたでしょ? 狼男には、トリカブトよ」


 女王の声だけが、廃教会に静かに響いた。

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