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それは福音の如く

(あの時と同じだ……!)


 歯噛みする思いで、私は身体の奥からせり上がって来る灼熱感に堪えようとしていた。

 それは狂おしいまでの悦びと、恍惚と、それから----殺意だった。


(また私は……あの時と同じ轍を踏もうとしてる……!)


 八十年前のベルリンと同じように、私はただ震えているしかなかった。


(また私は、このひとを殺せないんだ……!)


 停電した地下防空壕でモルガナが物質化され、不死身でなくなった瞬間も、私は今と同じように無様に震えていた。

 殺すべき相手がすぐ目の前にいながら、みすみす機会を逃してしまった。


 魔法陣の上に、真っ白な爪先が触れる。

 その爪は桜貝のようだ。

 触れたら砂糖菓子のように崩れてしまうのではないかと思うほどに、繊細な色をしている。


 爪先に続いて、足首が炎の中から伸びてきた。

 足首の先には、なだらかな曲線を描く脹脛が現れ、太腿が続き、そして----。


 その先は見てはいけないような気がして、私は顔を伏せてしまう。


(今なら、この剣さえあれば……今度こそ、この魔女を……モルガナを……殺せる……!)


 そうだ。


 護るべき相手なんかじゃない。

 命を捧げるべき相手なんかじゃない。


 ひれ伏すべき相手なんかじゃない。


 この女は、私が殺さなければならない相手だ----!


 頭の中ではそう叫んでいるはずなのに、だが、身体は、びくとも動かないままだった。


 私だけではない、床に倒れたままの二匹の獣人達も、そしてその後ろから現れた獣人達も、礼拝堂にいる全ての生き物が、その動きを止めていた。


「……いいのよ、殺しなさい」


 揺り籠から出たばかりの『はじまりの魔女』は、私に向かい、高らかにそう言った。


「でもその前に、魔術のおさらいをしないとね……私の可愛いアイリス?」

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