女王の目覚め
『アイリス、もういいわ』
「でも……!」
肩で息をしながら振り向いた私の全身を、電撃のような戦慄が貫く。
私の背丈を越えて成長していた緑の炎が、人の形に変わり始めていたのだ。
「バウッ! ワゥッ……!?」
「キャンッ!」
牙を剥いて飛び掛かって来た二匹の獣が、見えない何かに跳ね飛ばされ、悲鳴を上げた。
もんどり打ったまま床の上に叩き付けられ、前脚をバタバタさせてもがいている。
私は唖然としたままその様子を見ていた。
(何が起こってるの……?)
初めてメリッサと会った時のような、いや、それを越えた震えのようなものが身体の奥から上って来るのを止められない。
(ダメだ……息が、できない……)
炎を纏った真っ白な爪先が、魔法陣に向かってするすると伸ばされていく。
獣達はもう戦意を失ったのかその場に立ったまま、私と同じように茫然としているだけだ。
(なにこれ……?)
剣先から血の滴が落ちる。
時間の流れが、緩慢になっていく。
(そうだ、今度こそ私はまた……モルガナに会える……今度こそ……)
今度こそ、復讐をしなければならない。
ならないのに----。
私には、その場で片膝をつく事しかできなかった。