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緑の揺籃
『犬嫌いは相変わらずなのね』
クスクスと笑う声に、私は声のする方へと跳び付くように振り返った。
『あと少しだけ待ちなさい、可愛いアイリス』
『……ッ!?』
弱々しかった緑の炎が、人の背丈ほどに大きく伸び、揺らめいていた。
『こんな駄犬で私を殺そうだなんて、ふふ……ずいぶんと舐められたものねぇ』
ゆらゆら。
ゆらり。
炎は揺らめきながら半物質から物質へと実体化を始める。
まだ姿は見えない。
だが、そこにモルガナはいた。
ゆらり。
ゆら……り……。
魔女モルガナが、受肉しようとしている。
この世界に再び現れようとしている----。
「グルルル……ッ!」
耳障りな唸り声を上げながら、すぐに次の獣人がその炎に飛びかかろうとする。
「させるかっ!」
残った力を振り絞るようにして私は叫んだ。
異様に盛り上がった首筋を、渾身の力を込めて切り裂く。
「ギャゥゥッ!?」
筋肉を裂く嫌な手応えと共に、ごぽごぽという水音が聞こえ----毛むくじゃらの首筋から、一拍置いて血が噴き出した。