決断
メリッサのいた場所には、小さな緑の炎だけが、ぽつりと燃えているだけだ。
掌に乗るほどのそれは、頼りなく、儚い輝きを湛えている。
今なら、と私は思う。
今ならきっと、あの小さな炎を消してしまえば、モルガナの魂を消滅させる事ができる。
あれほど光り輝いていた魔法陣の輪郭は薄れ、その主を護る力は残ってはいない。
私は目を瞬かせた。
今なら、ここで私はあの魔女に復讐を果たす事ができる----。
私は剣を構え、無言のまま一直線に走り出す----。
最初の伏兵は、立ち入り禁止の立札の奥から飛び出して来た。
私に噛み付いていた獣よりはやや小さく、四足ですばしっこく移動する様子は魔犬という呼び方が合いそうだ。
「グルルルルルルルッ!」
耳障りな唸りを上げながら魔法陣の上の炎に飛び掛かろうとした瞬間を、私は一刀のもとに斬り捨てる。
「ギャン……ッ!」
血飛沫が頬を熱く濡らしたのを感じたが、拭う暇はない。
私は剣の柄をしっかりと握り直す。
魔性の存在を斬れるのは、このフルンティングしかないのだ。
人間の剣や、火薬や、兵器と呼ばれる類いの物では、魔犬一匹といえども灰に戻すは難しい。
せいぜい銀を使った武器や、それこそ法王庁の物置に眠っているような怪しい呪いめいた手法を用いないで倒すのは、不可能に近い。
「いい感じよ! ちゃんとリンクできてる……!」
ここで相棒らしく応えてくれると盛り上がりそうなものなのだが、剣は剣なので返事は返ってこない。
その代わりに、
「グルルッ、バウゥ……!」
「バウッ! バウッ!」
たちまち礼拝堂に不気味な吠え声が反響した。
野犬の群れでも来たかと思うほどの、轟然たる吠え声が----。
(えぇ……? 一体何匹いるの……!?)
遮る物のない礼拝堂で犬の群れと鬼ごっこと考えただけで、鳥肌が立ってしまう。