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『カーラ、星辰の位置を再演算して!』
それは、唖然としてしまうほどに堂々たる魔女ぶりだった。
いや、着ているのは可愛らしい子供服だし、手にしているのは正体不明の端末だし、いわゆる魔女らしさからは遠く離れた姿ではあるのだけれども、それでも、少女は魔女としてそこにいた。
『大丈夫……グラマー域が閉じていない限り、このクラスの式の展開なら可能なはず……!』
端末の上で、白い指が猛然と跳ねる。
恐怖一色に染められていたはずのその表情は、今は息を呑むほど研ぎ澄まされていた。
歴戦の戦士のような、いやそれ以上の----刃のような気迫が浮かんでいる。
『再演算完了しました!』
AIの声に黒髪の少女は、こくりと頷いた。
そして、やにわにコートの前を開けたかと思うと、上から下までびっちりと並んだ内ポケットの一つに手を差し込む。
「よし、始めるわよ!」
高らかな宣言と共に、少女は内ポケットから取り出したキラキラと光る円盤状の何かを、タロットカードでも示すように自分の前に翳す。
「あー、なるほど……そういう……」
内側にあんなモノを何十枚も隠していたのなら、やたら重そうなコートに見えたのも当たり前である。
妙に納得をしながら、私は唸り続ける魔獣の口に左腕を押し込んだ。
「ングルルルルルルゥッ!?」
白目を剥いた獣人が、大きくよろめいた。
「少し静かにしててよ……私だってこんな涎だらけの口に手なんか入れたくないんだから」
「グゥゥゥ……ッ、ングルル……」
唸り声が小さくなるにつれ、逆立っていた毛が、ぺたんと勢いを失っていくのが分かる。
そんな私達の姿など目に入らないかのように少女は背筋を伸ばした。
そして、叫んだ----どこからこんな大声が出るのかと思う程の声量で。
「父と子と精霊の御名において、我、ファイルGimelより古の力をここに解放せり!」
円盤状のそれを、端末に素早く押し込む。
「拘束解放! 星よ歌え……我と共に!!」
その瞬間、少女の足元を中心にして、床の上に緑色に輝く円が現れた----。




