fragment12
(契約……? 本当に、この僕が……魔女と契約ができるの……?)
僕は魔女を見上げ、それから腕の中をそっと覗き込む。
こんな話をしていても、何も変わった様子はない。
魔女の唇は微笑みの形のまま、姉上の唇は、生気の失せた白い色のまま----。
「どうしたの?」
「……いえ、あの……本当に、け、契約……できるんですか……?」
力を失った身体はとても重たくて、ぐにゃぐにゃしている。
僕は腕に力を込めた。
「だって、本で見たのは……例えば、あの……牛の生き血とか……」
「そうね、そういうのもあるわよ」
(やっぱりそうなんだ……!)
噂話で聞いた魔女の儀式の数々が浮かび、僕は身体を震わせた。
今にでも目の前の魔女が頭から角を生やし、牙を剥き出すのではないかと思うだけで、心臓が破裂しそうになる。
(だけど……もし言われても、生贄なんて、こんな場所で用意できる訳ないし……)
その時、ふと静かな視線を感じ、僕は少し離れた木の方に顔を向けた。
繋いでいる二頭の馬達と、目が合った。
(それはダメ……! お前達を生贄になんか、絶対できないよ……!)
大慌てで僕はその恐ろしい思い付きを振り払う。
ブリッツは僕の馬。シルヴァーノは姉上の馬。
どちらも人間の言葉が分かる賢い馬だ。
(できないよ……生贄なんて、僕には無理だよ……)
今もきっと僕達を心配しているのだろう、二頭とも耳をピタリとこちらに向けて立てたまま、命令を待っている。
(姉上は助けたい! でも、だからって……あぁ……でも……)
「そんな顔しなくてもいいわよ」
魔女が、ゆっくりと僕の方に屈み込んだ。
「……っ!?」
咄嗟に身を引こうとしたのに、できなかった。
頭巾に隠れていた顔が、想像していたものとは全く違っていたからだ。