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かりそめの忠誠

 そう、私は死なない。


 どんなに傷付けられても、この身体は再び元に戻る。

 どんなに否定しようとも、どんなに見た目が人間と変わらなくても、私は異形の存在なのだ。

 この魔獣と、変わらないのだ。



 だが、メリッサは違う。


 はじまりの魔女のクローンとはいえ、その肉体は、幼い少女のものでしかない。 

 魔獣の一撃ですぐに死んでしまう、か弱い存在なのだ。


 それでは困る。


 私が、困るのだ。


 今死なれたら、私が彼女モルガナを殺せないのだから----。

 

 私は唇を噛んだ。

 ぎりぎりと喰い込み続ける牙の痛みに耐えるためではなく、昏く脈打つ心を静めるために。


『アイリス……っ!』


 メリッサが立ち上がり、ぶんぶんと両手を振っている。

 その姿は無邪気そのもので、やっぱり子供以外の何者でもない。


「これ、受け取って……!」

 私の叫びに、少女は弾かれたようにして駆け寄って来る。


「いいよ! 投げてっ!」


 組み敷かれたままの姿勢で、私はランドセルを放り投げた。


 子供相手にしてはあり得ないほどの勢いで投擲したランドセルに向かって、少女は跳び上がる。

 まるで猫のように、しなやかに。


「……ありがと!」


 僅かによろめきながらも、両手でしっかりと抱き留めた。


「グワゥッ! ワゥゥ……ッ!」

 魔獣は私の身体を投げ捨てるようにして離し、今度はメリッサに向かって地鳴りのような唸り声を上る。


『アイリスっ! あと15……いや10秒だけ稼いで!』

 その場でランドセルの中から何かを引き出そうとしながら、少女は叫ぶ。

『……え、まだやるの?』


 剣は使えない、首筋からは絶賛大出血中----となれば、あとは片手をくれてやるくらいしかないのだけれども----。

『あの、これ見た目の通りにかなり痛いんだけど……』

『何でもいいから、とにかくお願い……ッ!』


 そこまで言われたら、付き合うしかない。


『仰せの通りに、お姫様……!』


 苦笑いで私は応え、残りの言葉を飲み込む。

 

(貴女をこんな所でむざむざ殺させる訳にはいかないもの……!)

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