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少女が魔王と呼ばれた元凶  作者: 4047
プロローグ
2/12

2


「何ッ! ……犬? なんで」


 白い光が晴れると、目の前に痩せ細った体と本来であれば綺麗であろう金髪も埃でくすんでいる少女がいた。多分だがこの子が例の今回助け出さなければならない加護持ちの子なのだろう。いきなり光の中から俺が出てきたから目を白黒させている。


 辺りは何処の牢屋かという造りだ、四方を鉄の壁に囲まれており、頑丈そうな扉ともう一つは簡易の木の扉が付けられていた。部屋に有るのは堅そうなベッドが一つだけ、それだけで待遇がいいわけがないと直ぐに分かってしまう。


『無事に到着したようだな、察しの通り目の前の少女が護衛対象だ』

『それでどうすればいいのでしょうか?』

『先ずは鉄の扉を壊せ』

『壊せと言われましても、どのように……精霊魔法を使うのは分かりますが』

『適当に風の刃で斬り刻めばよい』


 斬り刻めばと言っても鉄をそんな簡単に切り裂けるのか? だが女神様が出来るというのなら出来るのだろう。きっと魔法なんかよりも高威力に違いない。

 やり方は簡単、イメージをするだけ。本来の魔術には詠唱やらが有るらしいが――これはこの世界に送られる際にインストールされた知識によって分かった――精霊魔法にはそういった複雑なプロセスであったり詠唱であったりは必要ない、俺的にはまたまた幸運な事だ。これで運を消費し尽くしてないといいんだが……ヤバイな、今のフラグじゃないよな、フラグだったら叩き折らないと。


 取り合えずやってみた。俺が生み出した風の刃が鉄を木っ端みじん! そのまま周囲にある魔力という魔術の元の更に元、魔力の元の魔素に働きかけるとヒュッという音と共にイメージした通り鉄の扉に向かって行き、そして扉を斬り刻んだ。

 

 その光景に俺と少女はぽかんと崩れた扉を見つめる。


『今の音で人が来るだろう、早々に抜けるぞ』

『は、はい』


 俺は少女のボロボロの服を咥えて扉の方へと引く。不思議な事に四足歩行も問題なく出来るし、敏感な鼻も耳も自分の背が幼児並みに低い事も全て受け入れてしまって、しかも違和感を感じない。きっと女神様がそうであるという風に俺を作ったからだろうけど、中々に不思議な感覚であることに違いは無い。


 っと、そんな事よりも早くいかないとだな。


「えっと、これは犬さんがやったの? 私に出ろって言ってるの?」

「わふっ」


 大きく頷くと、少女は意を決したようにゆっくりと今は無き扉へと近づく。俺はその前に扉の残骸に乗ってあたりを見るが、そこは通路になっており、他にもいくつか扉が存在していた。俺の任務はこの子を連れ出す事なので、他の連中には悪いがそのままにしておこう。


『そこを右に真っ直ぐ行け、この建物は構造が簡易的だ、真っ直ぐ行けば階段がある』

『わかりました』


 女神様とは所謂念話のような感じで頭の中に声が響き、そして俺が心に思ったことが相手に届くようになっているようだ。


 少女を先導するように右に少し行って振り返り一鳴き。


「そっちにいけばいいのね?」

「わふっ」


 だが思ったよりも少女が衰弱しているようで、歩く速度はかなり遅い。だが流石に少女をのせて歩けるほど俺もでかくは無いので少女には頑張ってもらわないと困る。


『来るぞ』


 女神様がそう仰った瞬間、甲冑に何やら青いマントの様な物を付けた人物が三人此方に来るのが分かる。見た感じ騎士のようだが、そうすると此処は国の施設という事になるのだろうか。……人体実験の可能性もありそうだな。衰弱していると言っても少女は後一週間で衰弱死するとは思えない、となると外的要因……。

 

 早く出よう、俺は甲冑の隙間に風の刃を入れで騎士らしき三人を殺した。人を殺したというのに確かに何も感じない、それどころか自分が少し強くなったような感覚にもなる。自分の奇妙な精神に一瞬眉間に皺が寄るが、俺もこういう魔物に転生したのだと考えるとどこか落ち着いた。


 目の前でガシャンと音を立てて転がる三体を放置して、そいつらから流れ出る血を見て唾を飲みつつも俺についてくる少女。死んだと分かっているのにこの程度であるという事は、それだけ恨みが深かったのかもしれない。普通の少女なら悲鳴の一つでも上げそうだしな。もしくは人が死ぬのを何回か見たことがあるのか。


 ……自分と同じ実験とかそういう動物のような扱いを受けている他人を知っているのかもしれないな。そう思いながら俺は嗅覚と聴覚を使って接近する者に風の刃を放ち続けている。そのため、方々からガシャンという音や人の怒鳴り声が聞こえてくる。


 どうやら普通の犬よりも頭の出来や嗅覚や聴覚もいいようで、なんとなくだがこの施設の全容が把握できつつあった。もしかしたらこれも精霊魔法のお陰なのかもしれない。造りとしては此処は地下にあり、そして三階に相当する場所だという事。地下一階は部屋が四つある程度の大きさが存在する。そして二階は此処三階と同じように一本道の通路と個室が乱立、四階は広い大きな部屋があり、五階は何か色々と置かれているようだ、しかも生物? 人以外の生物? らしきものもいるがよくわからない。


『それは魔物だ、それとお前の思っている通り、精霊魔法の風がお前の頭に直接情報を与えている状態になっている、勿論そこらの犬よりも器官の敏感さは勝る』


 という女神様からのお話を頂きました。やはり精霊魔法か。脱出するのがもう少し大変かと思ったが、結構簡単だ。いや、簡単に出来るようなチートを女神さまが用意してくれたという事か。

 

 ゆっくりだが確実に進み、二階へと移る。階段や廊下には俺が斬り殺した騎士と思われる者たちの屍が転がっており、既に此方に来ようとするものは今のところ感じられない。


『女神様、隠密に優れているような奴はいますか?』

『いやいない、このまま外に出られるだろう』


 少々拍子抜けではあるが、その言葉通り二階の一本道を歩き切りそして地下一階へと出た。地下一階は今までの殺風景な牢屋と違って少しは生活感の有るような造りになっていた。木の廊下や、一般家庭で使われているのであろう椅子や机、それに台所などがあることから、此処は先ほどの騎士や此処を監視であったり使ったりしている者たちが過ごしている場所だったのだろうと推測できる。

 そして奥にある階段を上り地上階へ。地上階から地下への入り口は本棚で隠されており、思いっきり見られたくない場所扱いもされている。勿論その本棚は俺が壊したが……というよりも、出口にふさがっている何かを壊して、そして出たら本棚であったと分かったが正しいけどな。

 地上階は更に様相が変わる。まるで貴族の屋敷であるかのような感じだ。と言っても実際貴族の屋敷なんぞ見たことはないが、所謂カーペットが敷いてあって廊下に趣向品等が置かれており、それなりに高そうなテーブルがある場所という意味である。


 少女も上がこうなっているのは知らなかったようで、目をパチパチさせながら驚いて辺りを見ている。


 ゆっくり見て回りたいのは山々だが、先ずはこの子の身の安全が第一だ。玄関にも数人の反応が有ったので斬り殺し、少女と共に外へと出る。


 外はデカイ屋敷が立ち並んでいる区画だった。


『右だ、早く屋敷から離れた方がいい』


 人を呼ばれたか。問題は少女の体力なのだが、後ろを振り向くと倒れている騎士を踏まないように出てくる少女。


「わふっ」

「外……」

「わふっ!」

「うん、そっちだね」


 外に出られたことに感動しているようだったが、時間も無いので少し強めに吠えて少女を促す。少女は外に出られた事が嬉しいのか、それとももうあの場所に戻りたくないという思いからか、小走りで俺についてくる。気持ちと気力でなんとかと言ったところだ。


 追っ手の気配は未だ無いが、正面には多くの人間の匂いを感じる。きっと市や大通りがあると思われるのだが、このままこのぼろ布の少女を向かわせていいものなのだろうか。

 変に注目を浴びる可能性もある。


『お前の思っている通りだ、次の道を左に曲がれ』


 俺は指示に従って人の往来が激しそうな場所の少し手前で左に曲がる。あたりは未だデカイ屋敷が多く連なっている場所であるが、その大きさが少しだけ小さくなったことから、貴族街の中心からは離れられたと思っていいだろう。そして漸く俺達が通っていた直線の道付近を騎士が走って通り過ぎていくのが分かり、かち合わなくて良かったと胸をなでおろした。


 少し進むと女神様から念話が入る。


『その付近に馬車があるな?』


 確かにそれなりの大きさの屋敷の前に馬車が停まっていた。

 リアルで馬車等見たことが無いので結構感動ものであるが、この馬車は荷を運ぶための物なのか幌がついている。俺がその中に飛び込むと、少女はためらいながらも中へと入って来た。


 馬車の中には樽が並んでおり、俺は奥の方に少女を誘導してそこに座らせて自分も物陰に隠れた。


『そのまま音を立てるな、この馬車の持ち主は中を確認するような性格ではない、そして検品を免除するために多額の賄賂を貴族に払っている』

『……凄く悪そうに聞こえるのですが』

『あぁ、お前には我が殺せと言ったら商人と護衛を含めて殺してもらう、なにせ少女を連れてきた張本人だ』


 成る程、二重の意味で俺達をこの馬車に乗せるように誘導したのか。馬車の中を覗かれずにスムーズに街を出るため、もう一つはその商人を殺すため。


 少女の様子を伺うと、チラチラと俺と外に目をやっている。俺も今まで歩いてきた街並みを思い出すが……本当に此処が日本でないことが分かり、今更ながらにテンションが上がって来る。しかも実際行ったことが無いから知らないが、ヨーロッパとかあちらの建物に近いものが立ち並んでおり、それがまた一層俺のテンションを上げてくれる。


 これから起こる事、そして今までに起こった事を考えてワクワクとした気分でいると、周りが少しうるさくなると共に馬車が動き始めた。





プロローグは3までになります。主人公のチート具合は、これから一章で更に増して行く予定です。

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