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クシナダ2

遅れてほんとごめんなさいm(_ _)m


「この櫛を落としたのはお前か?」


そこに立っていたのは一人の青年だった。手にはあの櫛を持っている。


「あなたは……?」


そう呟いたのは母だった。いつの間にかそこに立っていた彼は、以前に私が落とした櫛を手に持って差し出す。


「もう一度聞く。これは、お前のか?」


「あ、、はい、私のですが、、、、。それをどこで?」


それは確か、この川に落とした母からもらった櫛だ。もうどこかで壊れてしまっていたと思っていたのに……。

涙で濡れた目をこすりながらその櫛を見つめる。櫛は川の水で傷んでしまっていたが綺麗に手入れされて青年の手に収まっていた。むしろ傷んでしまったところ以外は以前よりピカピカになっている。手入れを、してくれたのだろうか。こんな古ぼけた櫛を。


「この川の下流で拾った。受け取れ。」


受け取ると櫛は手の中で転がった。鮮やかな紅色は、なんだか濃くなっているような気がした。


「、、、ありがとうございます。」


「……?なんだ嬉しそうではないな。もしかして捨てたものだったか?それはすまない。」


青年の言葉に目を剥く。嬉しそうではない?なんで、、、


「?そんなこと、ありません。これは以前川で落としてしまいもう諦めていたので、、。」


「………。そうか、それはよかった。」


「し、失礼ですがあなたはどこの誰でしょうか。村では見たことがないようですが。」


不意に父が言った。そういえば見たことがない。ここら辺に村は1つしかないし、そもそも青年の格好はどこか不自然だ。……いや、服装ではなく雰囲気か。青年の裾や袖を持つ服は祭事の時に用いるものだが不思議ではない。雰囲気は、どことなくやんちゃな感じで、それ以上に神秘的だった。


「……俺はスサノオという。そこの娘に櫛を返しに来た。」


スサノオ、、。それは確か神の名ではなかっただろうか。

神の国高天原に住んでいるという素戔嗚尊。本当にこの人が、、、、?!


思わず信じられないとばかりに目を見開く。隣を見れば、父も母も同じだった。母に至っては口も開いている。


「、、、、、あなたがスサノオ?あの?」


聞き間違いかと思ってもう一度問う。


「一応そうだ」


「一応って、、、。嘘でしょう?」


思わず嘘と言ってしまった。だって神とは姿を現さないものだから。それにこんな青年が神なんてありえないと思ってしまったから。

そう発言した途端場の温度が二、三度下がった気がした。どうやら怒らせてしまったようだ。目が完全に座っている。


「ほう、、、この俺を嘘つき呼ばわりか。じゃあこうすれば信じるか?」


そう言うと青年はパチンっと指を鳴らした。指を鳴らして何になるのかと思いきや……。


ーーバキッ


手の中にあった櫛が砕けていた。粉々になるまで砕かれていて、見る形もない。磨かれて綺麗になっていた櫛はもはやどこにも無かった。


「え、、、、」


「いらなかったんだろう?丁度いい。その屑も消してしまおう。」


ポロポロと、止まっていた涙がまた溢れ出した。顔が歪む。目の前がぼやけて何も見えなくなった。

大事な櫛だったのに、せっかく戻って来たのに、、、悲しみが体をめぐる。


「、、、!酷い、、、」


そう言うと私は森へ逃げた。




森の切り株に座ると、手に握っていた櫛の残骸を見つめた。強く握ったせいで櫛の破片が食い込み血が出ていた。

ーーなんであんなことを言ってしまったんだろう。

彼を嘘つき呼ばわりしてしまった。その結果がこれだ。彼は本物だった。私は……。

自分で招いた結果なのに、八つ当たりして、逃げて。最低じゃないか。せっかく磨いて届けてくれたのに。後悔が後をたたない。なんであんな事をしてしまったんだ。なんでそう言ってしまったんだ。考えれば考えるほどきりがない。ポロポロと涙が溢れる。なんだか今日は泣いてばかりだ。


その時、後ろから声が聞こえた。


「あの、、、」


あの青年の声だった。どうしよう。


「、、なんでしょう。」


「、、、その、悪かったな。大切な櫛だと、知らなくて、、、。すまない。」


正直謝ってくるとは思わなかった。だって私が悪いし。むしろ謝らなくてはいけないのは私の方なのに。


「、、、!いいんです。あんな櫛 、落とした時から諦めてましたから。」


違う。本当は良くない。あの櫛が帰ってきて、運命だと思った。

なんでいつもこんな返答になってしまうのだろう。


「、、、。よかったら、話を聞かせてくれないか。」


彼から出て来た言葉は、私を動揺させるには充分だった


「、、、な、ななんでですか。」


「聞かせて欲しい。」


瞬間、スサノオの真剣な瞳に息を呑んだ。

この人になら、話してもいいような気がした。


「ーー私はーーー」








あの日、俺は絶望の淵にいたんだ。

高天原を追放されて、出雲に降りたはいいものの、食べるものもなし、どこに行くもなし。もう自分は死ぬしかないのかと思っていた。そしたら流れて来たんだ。そばに流れる川から、櫛が。

やることが無かった俺はとりあえず手入れをしてみた。ずいぶん使い込まれていて、きっと大事にされていたんだろうと想像できた。やがて綺麗になると、俺は持ち主を探すことにした。やることが無かったという事もあるが、何より気になったのだ。なぜかはよく分からないが、持ち主の女はどんな人だろうかと。


そして見つけたんだ。

川のほとりで、静かに泣いている女の子を。なぜ泣いているのか、そんなことはどうでもよくて。ただその美しさに見惚れてしまった。そして、声をかけてしまったんだ。


「この櫛を落としたのはお前か?」


でも。

ーー嘘でしょう。

そんな言葉が心を裂いた。嘘じゃない!そう言いたかった。でも溢れ出てくる怒りは抑えられなくて、いつの間にか櫛を壊してしまっていた。そして、名前もまだ聞いていない女の子は走り去ってしまった。なんであんなことをしてしまったんだ。そんな、いきなり言われたって信じないのは当たり前だろうに。後悔は後から後から降って来た。


「あの、、、。」


その時、両親から頼まれたんだ。本当に神なのならば、その力で娘を救って欲しいと。ヤマタノオロチを倒して欲しいと。

本来ならすぐ受けるべきだったのだろう。しかし。


「では、救った暁にはあの娘を、嫁にもらえないか。」


そんなことをを言ってしまった俺は浅ましいだろうか。でも、それだけ彼女が欲しかった。惚れてしまったんだ。


俺は、あの櫛に、彼女に、救われたから。今度は俺が救いたいんだ。きっとあの子が笑った顔は、俺を骨抜きにしてしまうだろう。そんな笑顔が見たいから。


そんな事を彼女に言ったら、気持ち悪いと思われてしまうだろうか。見ず知らずの人間に好かれるのは嫌だろうか。でも、そのぐらい俺は君が好きなんだ。


そして、彼女を追いかけた。彼女は切り株にうずくまっていた。また、泣いているのだろうか。俺が、泣かせてしまったのか。そう思うと心が痛んだ。そして、俺のことを許してくれるかは分からないけど、それでも俺は。君を命にかえても守ると、もう泣かせないと誓った。


「あの、、、」


「、、なんでしょう。」


本当は答えてくれないと思っていた。でも答えてくれて、泣きそうなくらい嬉しかったのは、俺だけの秘密で。


やっぱり、君と出会えたのは運命なんじゃないかと、そう感じた。



余談ですが。

地区コンクール抜けたので県いきます。応援、お願いします。


引き続き、斐伊川に流るるクシナダ姫の涙〜本当の物語〜 をよろしくお願いします。

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