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承章:第二十九幕:最初の歪XV

承章:第二十九幕:最初の歪XV


 白の森の中。一つの切り株を挟んで、薬草の香りを微かに放つ黒いローブを纏ったイダと対面していた。

 リアからの戦闘訓練以外に、時折イダから魔術の使い方を教わっていた。イダはいつもこの世界の事を教えてくれていたが、魔術の事を教える時はどこかいつもより活き活きとして見えたのは気のせいではないらしく、現に若干胸をそらせていた。


「良いですか?ミコト。――魔力弾<タスク>は初歩魔術にしては、実に奥が深い魔術です。形状や数など、その術者が如何に多くの「型」や同時に展開できる「数」を持つのか。それだけで魔術師の優劣が決まると言っても過言ではありません」


 そう言い、イダは右手を開き、掌を僕に向けると、目を瞑り、静かに魔力を指先へと集める。

 そこには「何も無い」と説明を受けたはずなのに、各々の指先に異なる形の物体が「見える」。


「解らないと思いますが、今私の右手の指先に――「親指から、球体、立方体、円柱、三角錐、あとは……何って言えばいいんだコレ……ひし形を立体的にしたやつ……?」

「――え?」


 答えを奪うような形で、自ら答えると、イダは驚きを隠せなかったのか、指先に展開していたのであろう魔力弾<タスク>を解いてしまい、目を見開く。

 

「……見えていたのですか?魔力弾<タスク>が……?」

「見えていたのが、イダの言う魔力弾<タスク>である、という自信はないけど、今言った形であっているのなら、見えてるんだと思う」


 僕の答えにイダはただ、信じられない、とでも言いたそうだったが、しばらくして納得したのか、苦笑した。


「さすが世界に愛されている人です。私も「見える側」で、人よりもこの魔力弾の習得により精度を高める事が出来たんです」


 そう言い、広げた五指を折り曲げ、人差し指だけ伸ばし、再度魔術を行使する。

 形は球体から、無数の針が生えたと思ったら、回転をはじめ、しばらくして回転が止むといつのまにか球体へと戻っていた。


「今はこうやって一つしか出していませんが、上位の魔術師ともなれば、こんな規則的な形であれば何百と生成できるはずです」


 少なくとも僕にはその指先に浮いている魔力弾が、規則的な形をしているとは到底思えないのだが、イダがそういうからには少なくともイダは「上位」なのだろう、と勝手に考えをまとめ――、


「――まぁ私なら、軽く四桁を生成、維持できますけどね」


 ――と、無い胸を張られた所で、イダのカテゴリーを「最上位」に置いたのは言うまでも無い。


 そんな「楽しかった頃の思い出」が脳裏を掠めた時には、「俺」の放った魔力弾は、ヴェザリアの額に突き刺さる、その刹那。

 いつまでも進むことなく、ヴェザリアの額に届かず、中に浮いたまま微動だにしなくなった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 名前すら知らない人間から一方的に攻撃を受けたのは今回が初めてではない。

 むしろ名前すら知らない、という意味で言えば、氷雪の嵐に見舞われ身動き一つ出来ていない、そこの銀女<シルヴィーナ>だってそうだ。

 王の命に従い、軍を率い進んだ。その先に偶然村があり、蹂躙した。その中でただ一人、私に木の枝を持ち立ちはだかった者。怒りが、悲しみが、年端もいかぬ少女をどう育てるのか、ただそれだけの興味で生かした少女。

 つい最近まで名前すら知らなかったが、どうやらアルフィーナと言うらしい。

 

 では、あの裏切り者と同じ紋<ウィスパ>を宿す青年は誰なのか。

 普通に考えれば、銀女<シルヴィーナ>の仲間なのだろう、という考えに行き着くが、両頬に宿した紋は従属の烙印の影響だという。

 であれば銀女<シルヴィーナ>にとっての奴隷という位置づけになるだろうが、たった今私の額目掛けて放たれた魔力弾<タスク>は、とても「奴隷」が放って良い一撃などでは決して無い。

 それほどの力、技術に秀でているのであれば、もっと別の生き方だってあるはず。

 

 最も気になるのは、言うまでも無く頬の紋だ。

 そこに「模様を描く事」など、この世界に生を受けた人間であれば、真っ先に「やってはいけないこと」だと学ぶはず。

 それは「人を傷つけてはいけないが、魔族を殺めることは罪にはならない」などとふざけた法を学ぶよりも先に父母から言われること。

 だが彼の青年は頬に紋がある。烙印の浮き出る箇所を銀女が指定したのだろうか、とも思案したが、行き着く答えは「ありえない」。魔族を憎んでいるアイツが、自らの周りに魔族を彷彿とさせる者を侍らせるとは考えにくい。

 

 であれば、青年自ら烙印の箇所に顔を、両頬を選んだのか。――その考えが行き着く答えを、私はただ笑みを作る事でしか見出せなかった。

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