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承章:第二十八幕:最初の歪XIV

承章:第二十八幕:最初の歪XIV


「先ほどの魔法、精霊の槍<エピルフィア>を放ったのは、あそこに居る……「人間」……なのか?……なんで顔に紋<ウィスパ>が浮いている」

「ハッ、お前らはアレの区別もつかんのか。呆れ果てるな」

「……その物言いから察するに、あの者は魂魄を縛る呪詛でも受けたか?……、だとすれば……それがお前ら「人間」の傲慢というものだ。意に反する者を縛り上げ、苦痛をもたらし、その恐怖から「人」を操る。……呆れ果てるのはコッチの台詞だ、銀女<シルヴィーナ>」

「……お前に、彼の何が解る……」


 自身から提案した事とはいえ、私が彼に強いた事は、眼前の憎い男の口から漏れた言葉と同じだった。

 言われた事を自分でも理解しているからこそ、認められなかった。だから、精一杯の応答をしても、自分の中でくすぶっている何かが晴れる事は無かった。  


「しかし……、あの紋様……、自ら芥に成り下がった者のそれだな。……実に不快にさせられる」


 ほんの僅かに感情をあらわにしたのか、一瞬眉がピクリと動き、身に纏う殺気が淀むヴェザリア。


 ミコトの頬にある群青に染まるそれは、鳳仙花の種の形を宿し、内側に小さい円が一つ。

 私自身、多くの魔族を屠ってきた過去があるが、同じ紋様を宿す魔族など見たことが無いため、それはきっと、魔族にとって名前や経歴以外に、個人を特定するための手法として用いられているはずだ。

 何度も見てきた手配書の中にも紋<ウィスパ>だけを確認する意味を込めて回される資料が有ったくらいだ。

 その経験から、彼が亡くなったイニェーダという魔族の紋を受けづく事が、何を意味するかくらいわかる。


 それと同時に、私自身が何も知らない事を痛感する。

 

「……あの森で暮らしていた魔族<アンプラ>はお前にとってのなんなんだ」

「……森?銀女、貴様あの紋様を宿す魔族が何処に居るのか知っているのか?」

「知っている、と言えばどうなる」

「その身に聞くまで、と言いたいところだが、貴様の事だ。例えどの様な責め苦を与えても、決して口を割らない、そうだろう?」

「解っているじゃないか。――、ならば、どうする?」


 私の問いに、返事も無く、ただヴェザリアは笑みを作り、瞬時にその場から消えうせた。

 床に残る埃が舞い、跳躍したのだとわかった時にははるか後方へと飛び退くヴェザリアを確認でき、間合いを詰めようとした刹那。

 この間に入る前同様に、空中に魔方陣が生成され、そこから氷塊が飛来する。

 鈍器の様に、丸まったもの。あるいは刃物のように、鋭いもの。砂礫のように小さく見えにくいもの。

 それら全てが重なり、時として一瞬だけ開ける視界に遠くのヴェザリアを刻みつけ、少しずつ歩を進める。 

 耳にはただ氷塊が飛来する音、切り伏せる音だけ拾い、破砕した細かくなった氷塊が床を打つ音が重なると、いよいよもって騒音だらけ。

 そんな中でも、距離が開いていても、憎悪をぶつけるべき相手の声というのはどこまでも明瞭に聞こえた。 


「つまらん問いなどするな――お前が答えないと言うのあれば、答えを知っているあの紋<ウィスパ>を宿す「人間」に聞けば良いだけだ」


 その言葉を最後に氷塊の激しさは増し、完全に視界を絶たれたが、最後に振り返った先に見えた「人間」の顔を見て、私は疑問を抱く事しか出来なかった。


 彼はいったい、何に対してそこまで怒りを露にしているのか、と。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「――、ヴィルヘルム」

 

 腕に抱きかかえていた、アリアさんを床に下ろし、そう口ずさんでから、左肩に吊っている木製の弓を取る。

 最後に使ったのがだいぶ昔のように感じるのは、大切な「誰か」が欠落したからだろう。

 練習の時いつも握って、構え、魔術を行使した。その傍らに立って、その出来を判断してくれた大切な「誰か」が居ない。

 

「ミコト様、まさかとは思いますが、私達を止めておきながら――」


 隣で、微かに漆黒のヴェールがゆれ、凛とした声が耳に入るが、途中で声が止む。

 その理由はまずもって解らないが、彼女が「何か」を見たのには間違いないだろう。

 

 視線の先にあるであろう、「俺」の顔だとは思いたくは無いけど。


 静かに、左手で弓を構え、狙いを定め、右手の指先に魔力で生成した弦を張る。

 そして弦を引き、魔力弾<タスク>を生成。形は矢のそれだが、鏃などは無く、螺旋状の刃を有した長い針のイメージ。

 

 狙いはたった一点。


 たった今、イダを「ゴミ」と称した、「誰か」さん。

 呼吸を整え、吸ってから止める。そして目を瞑り、引き絞った矢を放ち、狙いでもあるアルフィーナの仇へと、真っ直ぐに飛翔した。


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