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承章:第二十四幕:最初の歪X

承章:第二十四幕:最初の歪X


 ――何かを隠している。


 そう最初に感じたのは、ミゥに案内された部屋で、リュスと話し合った時だ。

 ミコトにしか見えない存在の自らを「アリア」と語る女性。

 私をはじめ、ディーネも、七枝たるリュスさえもその存在に気付けていない。

 ミコトは私達にアリアの容姿を語ってくれたが、その時に微かに、ほんの微かに何か悩んでいるように見えた。

 最初はただ本来みえるべき相手であるリュスに気を遣ったのだろう、と考えたが、違う。

 

 私は彼のその顔に見覚えがあった。

 初めてその顔を見たのはほんの数日前で、忘れもしない。

 放心して、生きる意味を見出せず、ある人物を想う、そんな時に彼が見せた表情。

 本来なら嬉しさのあまり笑顔で語ってくれても良い相手なのに、「ソレ」はもう存在しない。

 ゆえに、彼の表情はかげり、名を出すだけでも心が軋むのだろう。


 ――イニェーダ。


 ミコトが仕えていた主であり、彼が想いを寄せる相手。そして私が討つべき魔族<アンプラ>。

 リュスとの決闘において、彼は魔族を人のように接し、弔い、幸を願った。そんな彼を見て、これから先否応無く彼を巻き込んでしまう戦いを思うと、身体の中で何かが軋む。

 その軋んだ何かが、私には解らなかった。それでも何か痛みを抱えてしまい、口から小さくため息のように息を出す。その息は今私達が何処に向かっているのか、何に近づいているのかを如実にあらわすように、白くなり、直ぐ消える。

 その様をみて、この痛みも直ぐに失せれば良いのに、と思ったのは言うまでも無い。


「疲れましたか?アルフィーナ様」

「ああいや……。少し思う所があってな……」

「これから先、長い旅を共にするのです。私に相談してみてはいかがでしょう?……私も一人での長旅で、誰かと共に旅をするのは初めてなので、色々気心を知っておきたいのです」

「……なんでそう、ディーネは躊躇いなく相手に踏み込める……。――ミコトの事にしたってそうだ。出会って間もないのに命を預ける程に信頼をしているし……、私には出来ない事だ」


 前々から感じていた事を口にすると、歩きながら彼女と顔を見合わせ、しばらく時が流れ、唐突に噴出すように笑い始めた。

 

「ふふ。ああ、いえ。アルフィーナ様を笑ったのではないんですよ?……でも、ふふ」

「何がおかしい。何も変な事は言っていないだろうに」

「だって、ふふ。アルフィーナ様に「だけ」は言われたくないですよ」

「……何がだ」

「だって、最初に「命」を預けたのはアルフィーナ様でしょう?」

「何の話だ。私はアイツにお前のような――「銀旋の乙女。剣姫。魔を払う聖女。数多の名と共に、多くの魔族を屠った貴女様がなぜ今更、自らの「命」を預ける仲間を探しているのか、私には解らないのです」


 そんなもの決まっている。答えなんて解りきった事だ。


「敵地奥深くに行くのに常に戦える状況を備えるのには私一人では事足りないからだ。それ以外の何物でもない」

「そうですね。確かにアルフィーナ様の考えは「戦いに赴く者」としての考えで、模範的な答えとなりましょう」

「あたりまえだ――「ですが、私が問いたいのは、「ミコト様から未だ信頼を得られていない「女」」のアルフィーナ様に答えて頂きたいのです」

「……ッ……女であるかどうかは関係あるまい。……逆に聞くが、お前はどうなんだ。ミコトから信頼を得られているのか」

「私は「与えられる信頼」よりも「与える信頼」を重視しておりますので。気にもなりません。……ですが、そうですね。アルフィーナ様が「疑問」に感じている事に答えを与える事が出来る程度にはミコト様から信頼されているんじゃないでしょうか?」


 いちいち癇に障る喋り方をする。話し方は丁寧だが、完全に腹黒だ。


「恐らくアルフィーナ様はミコト様がアリア様について「何かを隠している」その事についてお悩みなのでしょう?」

「……お前のその目の前の布切れは心を見透かす魔術でも付与されているのか?」

「まさか。そんなものがあれば苦労しませんよ。……アルフィーナ様はミコト様とお話している時、何かに気付いた事はありませんか?」


 言われ、思案するが、特に何も導き出せない自分に若干の焦りが生じ、何でもいいから口にしなければ、と考えが先走った結果。


「……眼が綺麗だな……とか?」


 とんでもない言葉が口から飛び出して、直後笑われる!と身構えたが、ディーネはただ真面目な声音で頷き、続けた。


「んー……惜しい!まぁ、半分以上答えのようなものなのでしょうが。私としてはもう一息といった所ですね。質問の意図を変えましょう……ミコト様と話していてどんな所に好感が持てますか?」

「……、……眼を真っ直ぐに見てくる所、か?」


 自分の姿形が、周囲にどのような影響を与えているのか、考えなかったとは言わない。

 むしろ人一倍意識してしまう方だろう。神族の象徴とも言える銀の髪を宿し、瞳を有する私は、何処に居ても常に浮いていた存在だから。

 目立ち、周囲から浮く結果、誰しも慌てたように接してしまう。高慢な輩のみ当然というように相対するが、その手の輩が嫌いなのは言うまでも無い。


「そうですね。ミコト様はどんな時でも真っ直ぐに「ある情報」を拾っています。今しがた、アルフィーナ様が仰ったとおり、常に眼を見て、顔を見て、手振りを見て、相手の「感情」を理解しようとしておいでです」

「当たり前のことだろう。それの何が答えなんだ」


 今度はディーネが短くため息をする。

 それは私のような、思い悩んでのものではなく、どちらかというと「呆れ」から生じるもののように感じた。


「お分かりになりませんか?……ミコト様がリュス様や、ミゥ様とお話を設けていた場において、ミコト様はあるお方の顔だけは直視して居ないのです。恐らくは何か記憶に触れる物があり、今のミコト様の心のありようでは揺れ動くから、直視しにくいのでしょう。何度か視線が彷徨い、「やっと」眼を合わせている。私にはそう感じるのです」

「……ソレがミコトが私達に隠している何かだ、って言いたいのか?」


 リンファ族特有の漆黒のヴェールに顔を隠している以上、お前ほど感情が読めない相手もいないだろうな、とは口が裂けても言わずに、彼女が一度強く頷くのを見守る。


「あくまでも予想の域を出ませんが、おそらくアリア様のお顔には何かがあるんじゃないでしょうか?キズや皮膚疾患、あるいは……」


 「そう、例えばぁ」と続け、規則正しく歩調にあわせ前後していた彼女の腕がとまり、手が動き、ヴェールの上から両掌の人差し指が己の頬を指差し、告げる。


「ココに何かある人なら、アルフィーナ様にも、リュス様にも、お嫌いだと仰ったミゥ様にも「言いにくい」。ましてや、アルフィーナ様にはとっては「言えない」のではないでしょうか?」


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