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承章:第二十三幕:最初の歪IX

承章:第二十三幕:最初の歪IX


 動物園。

 それは小さい子供なら誰しも一度は「連れてって!」と親に頼む場所であろう。

 特別僕にはその「魅力」に気付けず、頼む親も居らず、テレビのニュース等で直立するレッサーパンダや、プールに飛び込むシロクマ等をみて満足していた。

 

 そんな僕が今になって動物園に行きたい、という「魅力」を嫌と言う程理解できた。


 動物側の視点で。


「あ、あの……アリアさん?楽しいですか……?」


 結局、リュスとの話し合いは、アルフィーナの予想通り、助力を求める形に収まった。

 ただ今回の以来を、ギルドに出すと多くの人間に現状を語る事と同義であるために、あくまでもリュスからの私的な依頼として落ち着く。

 また、同じ理由から騎士団員を派遣する事も出来ないため、最低限の人員で挑む形となった。

 ただ一点。驚いたのはミゥさんの行動で、最初はリュスも頑なに付いてくる事を長として部下を死地へと赴かせるのを拒んでいたが、たった一言。

 ミゥさんが放った言葉で、リュスが折れる結果となった。


『一人の見習い騎士としてではなく、「一人の亜人種として、私の願いを聞き入れてください」』と。


 その直前にアルフィーナがミゥさんになにやら耳打ちしていたのを見ている僕としては、何かいらぬ知恵でも与えたのだろうが、僕としてはリュスが亜人種に対し強く出れなくなっている事を確認できて、少しほっとした。

 そして今、リュスの先導で、白宝<アリア>が安置されているという間を目指すために、アリアーゼ城に入った。


 ――の、だが。

 リュスと対話を終えてからというもの、なぜかアリアさんはリュスの傍を離れ、僕の周りをグルグルと回り始めた。

 まるで品定めでもするかのように。まるで地球と月のように。ただグルグルと。

 時折視線を交わすと微笑み、隣を歩きはじめ、しばらくするとまた周囲を回り始める。

 一番前から、リュス、ミゥさん。並んでアルフィーナ、ディーネ。そして最後尾を歩く僕とアリアさん。


「羨ましいよ、ミコト君。私としては、すぐ近くにアリアが居ながらも、声しか聞こえていなかったんだ。今となってはその声すら聞こえなくなってしまったが、姿が見えている君はどれほど愛されているのか、計り知れないね」


 後ろを振り返りながら、歩をとめず放たれたリュスの言葉に、なんと返せば良いのかわからず、言葉を選んでいると、 


「そうだな。私もそう思う。……が、面白くないな。……ディーネはどう思う?」

「私は特に何も。ただ、「ミコト様の隣に相応しいのは私」だと思っているくらいです」

「……ハハ。どうやらミコト君も大変みたいだね……」


 なぜか仇敵に哀れみを向けられてしまった。


 アリアさんは前を歩く二人になぜか「かかってこい!」とでもいいたげに、手の甲を二人に向けクイクイと指を屈伸していた。

 その姿は二人には見えていない「はず」なのに、なぜか二人が同時に振り返ったのには少し驚いた。女の勘恐るべし。


「団長?私、今まで七枝の方々は何れも精霊を感知できる人達だと思っていたのですが、違うのですか?」

「七枝の中には感知できる者も少なくは無かったが、あくまでも「感じる」程度だったな。私は才能が無かったのか、気配を感じる事も、彼のように「見える」事も無かった。それに私は今日始めて「私が仕えていた存在」が精霊であると知ったくらいさ」


 リュスはココに案内するまでに、何度も後ろを振り返っては僕を見つめ、瞳の微かに揺れ動かし、どこか鬱蒼としていた。

 リュス達と会話をしていた部屋を出る直前に、彼に「アリアはどんな姿をしているんだ」と問われた時、ある一点を除きありのままを答えると、彼はただ「そうか」と苦笑してみせたが、その瞳には自分が持っていない物に対する切望の思いが感じ取れて、どこか後ろめたさが生じた。

 それでもそんな彼に、ある一点。「頬に紋<ウィスパ>がある」などと言う事が出来ず、どのような行動に出るか解らないアルフィーナにも、言えていない事だった。

 ディーネの思考は限りなくコッチ側のように思うし、魔族<アンプラ>に似ているという理由があってもすぐに手を出す事はないだろう。僕に危害が及ぶという条件下を除けば。


 リュスは変わりきっていた。僕が出した条件にはただ「亜人種」に対する冷遇を改善するための措置にたいし、亜人種以外の部下に対する接し方も軟らかいものとなり、接せられた部下の表情もかなり明るかった。全ての払拭するには時間を要すだろうが、確実に「良い方向」へ向かっている。

 それがまるで別人のようで、ここまで変われるのであれば出会った時からこうなれていたはずなのに、とリュスに対しある種の嫌気が生じる。


「そういえばミコト君。君との約束通り、あの決闘に用いた生き残った魔族の四人を、アスール村へと護送したよ。村長でもあるニナさんは最初驚いてもいたが、君の名を出すと即受け入れてくれた。後の事は彼女が上手く取り計らってくれるだろう」

「あり――が、……」


 言われた事に素で感謝の言葉を述べかけて、慌てて口を閉ざすが、聞こえただろうか?


「ん?何か言ったかい?」

「なんでもない。早く案内してくれ」

「そうかい。……ミコト君?次から感謝の言葉を告げるなら、もう少し大きい声で頼む。もう二十九なんだ、耳も自然と遠のいて――、冗談!冗談だから、弓を構えるな、矢を番えるな!君の技量は解っているが、冗談にしては笑えない!」


 武力を行使しようとして、リュスが慌てて謝罪するが、前を歩く仲間二人はクスクスと笑みを溢し、ミゥさんは慌てて僕の射線に入ってくるが、僕だって冗談だ。それが解ったのか、あまり本気で警戒しているようには見えなかった。

 アリアさんもやり取りを見聞きしていたのだろう、彼女もアルフィーナ達のように笑みの宿していた。その姿から、精霊であると解っていても、彼女を一人の魔族<アンプラ>として捉えてしまい、人と、亜人種と、魔族。これら皆が笑い会える。この場の出来事を、ただずっと続けば良いと願い、僕自身が目指したい物が見つかった気がした。


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