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承章:第十七幕:最初の歪III

承章:第十七幕:最初の歪III


「白宝<アリア>の暴走?」

 

 聞き返すように左手側に居るアルフィーナの言葉を繰り返す。


「あぁ。いくらお前が無知でも、各大都市に安置されている宝珠についての知識はあるだろう?」

「有るにはあるけど……、正直説明出来るほどを正確に把握しているわけじゃないよ……」

「……まぁ良い。……ここ雪原都市アプリールに安置されているのが白宝<アリア>だ。……ミコトはアプリール以外の都市に訪れた事があるか?」

「いや、ココが初めてだよ」


 「そうか」とつげ、アルフィーナはテーブルに指をつけ、一つの輪を描く。

 その輪は決して可視化された物ではないが、それが何を意味するのか、彼女の次の行動で理解する。

 

「私達が今居るアプリールがココ。円燐大陸ブリフォーゲルにおける最北部の都市だ。ココにはさっきも説明した通り、白宝<アリア>が安置されている関係で、その魔力を帯びた空気は冷気を伴い、万年雪景色がみられる地でもある」


 そう言い先に描いた輪の上部を指差し、言葉にする。

 全体的にどの都市がどの辺にある、というのは頭に入っているが、今はアルフィーナの講義をただ黙って聞くことにした。


「お前がアスール村で会話していたビルクァスという男が居るだろう?アイツはアルディニアの七枝だ。そして、そのアルディニアがあるのがココ」


 指はそのまま輪の左側、西側の端と捉え、止まる。

 

「ブリフォーゲルにおける、最西部の都市だ。同時に最多の兵を抱える都市でもある」

「……七枝ってのは何?」


 何度かアルフィーナの口から紡がれるそれは、ビルクァスさんを呼ぶ時に添えられていた。


「先における、魔大戦で三大英雄が現れる前、魔族の侵攻を食い止めていた七人から構成される「宝珠に好かれた」人間の事だ。ビルクァスは赤宝<ベルク>に愛された人間で、赤く輝く魔剣、ベルク・アインの所有者だ。……付け加えるとするならば、思い出したくはないだろうがリュスも七枝の一人で、白宝<アリア>に愛された人間だ……最もヤツの場合は騎士十選代<アルマティカ・ゴウン>としての名の方が知名度が高いだろうな」


 アルフィーナの口から出る言葉は、傷心している相手に思い出したくも無い記憶を思い出させようとしている。正直、名前すら聞きたく無かったし、思い出したくもなかったが、説明の節を折れずにいた。

 今は少しでも知識が欲しい。僕が少しでも善行を行う事で、自身が関わって来た人に残る魔族<アンプラ>を始めとした亜人の印象を少しでも変えられるように。


 意識していても、身体からあふれ出る何かが、アルフィーナをはじめ、ディーネにも気付かれたのだろう。彼女達はただ僕の顔を覗き込むようにして、僕の発言を待っているようだった。


「……続けて。大丈夫だから」

「わかった――。次に「アルフィーナ様?ココからの説明は私が致します」


 そうどこか嬉しそうに口にしたのは右隣に迫っていたディーネだった。

 彼女はアルフィーナが描いた輪の下部、最南部を指差し、続けた。


「ココに有るのが、私の故郷。風幻都市フェリアーニです。ですが……そうですね。実際にその眼で都市を見てから説明を付け加えたいと思っています。恐らくミコト様の想像を遥かに超えた都市である、とだけ説明をさせてください」

「って、言われると余計に気になるんだけど……」


 そのまま本心を口にすると、彼女はクスクスと笑う。


「では一つだけ。……ミコト様?「フェリア」と聞いて何を思い浮かばれますか?」

「……そんなのたった一人だよ。イダや僕の姉で……、会いたいけど、今は会えない……。大切な家族だ」


 ディーネは僕の言葉に二度三度頷き、嬉しそうに続けた。


「私は二つの意味を見出せます。一つはミコト様と同じ、あの方です。……もう一つは、この世界における最も大きな生き物の名前です」

「生き物?……クジラ……とか?」


 真っ先に出てきたのが、現実世界における最大の哺乳類だったが、ヴェールが左右にゆれ否定を示す。


「ふふ。ココから先はミコト様ご自身の眼でご確認ください。きっと驚きますから。外見も、有様も、入都する方法も、です」

「ちなみに私はあの都市にだけは住みたくないな……」


 何が原因かは知りたくないが、アルフィーナはなぜか顔色が優れておらず、「何か」を思い出した様子だった。


「あー、ひどいですアルフィーナ様。私の故郷なのですよ?」

「例え誰の故郷であったとしても、だ。地に脚が付いていないのはなんとも不安でな……」

「ちゃんと地に足着いて歩けるじゃないですかー」

「「フェリア」の、な……」


 アルフィーナの顔は疲れを孕んだ青色を示し、ディーネの顔は相変わらずヴェールで隠されているが、嬉々としているのだけはわかる。


「そして次に来るのが、七大都市の中で最も神秘に包まれた――」


 嬉々として語るディーネの言葉を遮ったのは、たった一つ。物音だった。

 ただ、ソレは決して小さくなく、それどころか僕達だけではない、周囲の人間全てが音源を振り返るほどの音だった。

 

 たった一回、僕達と同じ形のテーブルに腰掛けていた、見るからに冒険者といった風体の男がテーブルに振りかざした拳が織り成す破砕音。

 テーブルは二つの半円型に砕け、中央に向かって崩れ落ち、舞い上がる微かな埃と共に、男が大声をあげる。


「おい!この店は魔族<アンプラ>の入店を許すのかッ?!冗談じゃねぇえぞ!臭すぎる上に、反吐が出る!さっさとそのゴミをつまみ出せ!」

 

 男は大声と共に腰掛けていた椅子から立ち上がり、僕を指刺し、さらに語気を荒げる。


「この場で命を奪われなかっただけでもありがたいと思え!とっとと失せろ!飯が不味くなる!」


 入店した時点から、あの男の目線には気付いていたが、一向に出て行こうとしない僕に対しついにしびれをきらしたのだろう。

 どうしたものか、と考えをまとめようとしていると、左耳元から声が聞こえた。

 それは説明をディーネに譲った、アルフィーナの声で、静かになんの感情も載せる事無く、必要最低限の情報を僕に与えてくれる。


「ミコト、ダメだ。絶対に動くな」


 そうアルフィーナが小声で耳打ちをしてくるが、彼女自身解っているのだろうか。

 最初に声をかけるべき「相手」を間違えた事に。いや、どちらかというとこの場合は「解っていたけど止めるだけ無駄」だと判断したのかもしれない。

 それ故に、「まだ」理性を保てている方に静止を促した。


 ヒィィイイィィィン、と何かが空を切る音が聞こえ、振り返った先には空中に漂う霧のようなものが一つの道を作り出し、「彼女」が握る小さい曲刀へと続いていた。

 その刃先は止め処なく冷気を発しているようで、刃そのものが見えにくくなるほどの霧に覆われ、「大声」を上げていた男の首筋へと刺さっているようにも、添えられているようにも見える。


「……私の主を侮辱した貴様は、何度生まれ変わればその曇った眼が透き通るのか、とても楽しみです。……まずその短い「一回目」の生を終えてみますか?」


 とてもそんな言葉を言いそうにない「彼女」が静かにそう口にすると、冷気を纏った風が微かに「彼女」の漆黒のヴェールを揺らした。

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