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承章:第十六幕:最初の歪II

承章:第十六幕:最初の歪II


 冒険者ギルドのカウンターから逃げるようにしてアルフィーナの背中を押しつつ酒場側に戻ると、ディーネがメニュー表らしき物とにらめっこしており、その眼前のヴェールのせいで上手く見えていないのか、手に持ったメニューから遠ざかったり近づいたりを繰り返し、落ち着きが無い様子だった。

 その様子を背中を押され歩くアルフィーナもみており、疑問に思っていたのだろう。たった一言。


 爆弾を投下する。


「……老眼か?」


 あ、はい。僕も思いました。

 エルフ種の皆さん、外見年齢二十歳で固定されてるだけで、実際何歳なのかわからないので、ヴェールあっても何ら問題がないディーネが手元にある物を何度も調節してる様はソレとしか思い浮かばない。


「ち、違いますから!私まだ十八歳です!エルフ種である私に年齢トークさせるとは良い度胸ですねアルフィーナ様!」


 メニュー表をテーブルにたたきつけ、勢い良く立ち上がり、ディーネが腰掛けていた椅子が倒れる。

 表情は伺えずとも、完全に気を害したのだけはわかるが、その慌てぶりから、本当に十八歳ならそんなに慌てないのでは、と言葉がでかかったのを辛うじて飲み干す。

 年齢に対する概念が、エルフ種に限らず長命種ともなれば、かなり変わってくるのだろう。それこそ人種の物差しで測って良い物ではないはずだ。


「その慌てよう……、嘘だろ?」

「――ッ!?」


 アルフィーナには今度、物差しを買ってあげようと思った。


 なんか、ディーネの方からギギ、ギギギと音が聞こえるが、歯噛みしている音でない事を祈るばかりである。

 更に付け加えると、後ろにゴゴゴゴゴゴとでも書き込んで良いような禍々しいオーラを放っているように見えるのは気のせいだろうか。

 そのオーラを当てられて、アルフィーナという盾を押しつつ、テーブルに近づくと、ディーネはオーラを無事?収め、荒い鼻息と共に椅子を戻し、勢い良く座りなおす。

 最強の盾アルフィーナも、ディーネの向かい側の椅子に腰を下ろし、その隣に座るよう「ん」と短い台詞と共に顎で指される。

 言われた?通りアルフィーナに近い椅子に腰を下ろすと、ディーネのヴェールが微かに揺れて、何を意味しているのか理解できずにいた。


「それで、老眼で無いとすれば、何だって言うんだ?」

「……ハァ。もう良いです……。ミコト様?……私、アルフィーナ様の言葉に酷く傷つきました。何とかしてください……」

「って、言われても……」


 テーブルを挟んで向かい側に、わざとらしくヴェールの上から眼をこする仕草をするディーネを見て、何もせずに居ると時折手の動きが止まり、ちらりと覗くように見つめ、再度眼をこすり始める。無論、ヴェールの下から雫のようなものは落ちていないため、泣いてはいないのだろう。

 それでも話が進まない為、立ち上がり彼女に近づき、ベージュの髪を、頭を撫ぜてやる。


 それが気に入ったのか、身動き一つせず、ただ時が過ぎるのを待っている。

 この辺ミルフィとは大違いだった。あの子は撫ぜると頭を揺らし、もっと荒くしろとでも言いたげな勢いで撫ぜるよう訴えてくるのだが。


「ありがとうございます。やっぱりミコト様はお優しいです」


 そう言いきっとヴェールの下では微笑んでいるのだろう。

 そのままディーネの手が伸び、テーブルの下から椅子を一つ出すと、隣に座るよう促してきた為、アルフィーナの隣に戻るよりも、と思い素直に腰掛ける。



 ――と、テーブルを挟んだ正面に「何か」居た。


 

 銀髪を宿し、銀の瞳を瞬かせ、銀色に輝く騎士甲冑の上に古びたローブを羽織った、アルフィーナである。


 それは解る。


 何故、「何か」なのか。


 悲しいのか、妬ましいのか、嘲笑したいのか、憎たらしいのか、羨ましいのか、なんか良く解らない顔をしていた。

 その表情にディーネも気付いたのか、固唾を飲み込んで、硬直しており、とりあえず腰掛けた椅子を両者の間まで運び、座りなおす事でアルフィーナの顔は「とりあえず」といった具合に不機嫌さの色を薄くした。

 反面離れていったディーネに対しては、言うまでも無くどこかトゲトゲしいオーラを感じるのはきっと気のせいではないだろう。


「そ、それで……、ディーネさんはメニュー表が見えにくかったんですか?」


 話題を作るべきだと感じ、老眼発言の問題ともなった彼女の奇行を尋ねる。


「……違いますよ。……コレです」


 数秒の間をおいて、彼女が指差したのはテーブルの上に彼女自身がたたきつけた酒場のメニュー表だった。

 それが何を意味しているのか解らず、発言の続きを待っていると、彼女の反対側から声がする。


「まぁ、「普通」気付くよな。私だってアプリールに来た時驚いたさ。その原因も後になって理解したが……、この様子を見ると別の原因もあるみたいだな」

「……私はてっきり何かの冗談だと思っていたんですが……、どの項目も同じようになってて……自身の目を疑っていたんです」


 彼女達の会話が、一冊のメニュー表が原因とわかった以上、ソレを手に取る事で己にも理解を促す。


 酒場「氷の宿」と書かれたメニュー表を開き、香草スープ類の項目を見る。

 同じようなメニューが「兎のしっぽ亭」にもあり、どういうものか頭の中で簡単に想像ができる。

 その上で思った事は、


「……少し……高い?」

「森育ちのお前でも、解るのか?」


 そう言い、アルフィーナが僕の手にするメニューを覗き込むべく、直ぐ隣に椅子を運び一緒に見つめる。


「ハッ、ヴェルスのスープなんて、せいぜい十ガルド行くか行かないか、だぞ?あれは寒い地方でよく育つ野菜だからな。ココがフェリアーニや、アルディニアならともかく、アプリールだぞ?」


 言われ、眼を走らせた先には、「ヴェルスのスープ 二百ガルド」と記されていた。たしか、「兎のしっぽ亭」において、同じヴェルスのスープは十二ガルドと、このメニュー表を見た後となってはかなり良心的な値段だった。僕個人の価値としては、十ガルド=百円であり、現実世界に置いて百円でスープ類が飲める飲食店があれば、良心的な価格なのでは、と考えるだろう。

 ヴェルスというのは、現実世界においての小松菜的な野菜だと理解しており、このヴェルスのスープは鶏がらで取ったコンソメスープの様な味付けに、細かく切ったヴェルスと、解き卵を入れる一品だと記憶している。その値段が、百円から、二千円になっているのだ。


「……はい。フェリアーニにおいても、高くて五十ガルドと言った所でしょうか……?……ですが、ミコト様?私が最も驚いたのは中どころにある肉料理に関してです」


 いつの間にか、両者に挟まれるようにして一冊のメニュー表を三人で見つめていた。


「ちなみに、この店が高いわけじゃない。むしろココはギルドの運営とかみ合ってるからな、むしろ良心的な方さ」


 アルフィーナの「良心的」という言葉に、気がせいてしまい肉料理項目へとページを進め、ディーネがメニュー表とにらめっこしていた理由がわかる。


 ボクスバインの肉煮込み 千ガルド。リィズバードのから揚げ 千八百ガルド。トレィマスの柑橘焼き 千二百ガルド。

 何れも、寒冷地帯に多く住まい、大きく成長する種で、アプリールにおいて名物とされていたと認識している。

 その全ての値段が、軒並み高い。ココまで来ると、僕なら素材だけ買って自炊するレベルだ。


「最初はただ、獲物が結晶竜の影響で激減しているんだと思ったんだがな……。その原因を取り除いたにも関わらず、この値段となると私が導きだした答えはたった一つだ……」


 結晶竜の原因が無くなった、というのは僕の手で終わらせた為、誰よりも鮮明な記憶としている。

 その原因が無くなってなお、現状が変わっていないようで、アルフィーナの答えに耳を傾ける。


「……白宝<アリア>の暴走だろうな」

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