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承章:第十四幕:懐かしい言葉

承章:第十四幕:懐かしい言葉


 白光石。

 金鉱都市レインガッツにおいて出土する、鉱石の一つ。

 空気に触れている面は黒から濃い灰色をしており、大きさとしては決まった大きさなどが無く、大きい塊が出土した場合は小さく割って小分けにしている。

 本来の用途としては、細かく粉末状にした物を火薬入りの球に詰め、導火線を施し火により内部の火薬へと引火させる。

 それによって訪れるのは「閃光」であり、視力を一時的に奪う術として用いられる。

 

 その閃光が今、眼前に現れ、私が切った「何か」を理解した。

 

 白光石は空気が触れていない面が急に空気を当てられたり、熱されると、激しい反応を見せ一瞬にして太陽と同等の光量を発する。

 それも一瞬の事ではあるのだが、相手の視力を奪うのには十分な威力を有している。

 

 コレがもし魔法によって生じている現象なのであれば、無効化できるものを。

 最初から無効化できないと踏んでの攻撃なのだろう。


 現に視力を奪われ、頼るべき五感の一つを絶たれた。

 「普通」の人間なら、ここで慌てふためき、とるべき行動を取れず、追撃を受け破れるのが常だろう。

 

 ――「普通」の人間なら、な。


 私の視界が絶たれてから、数秒後に「ミコトは音も無く地面に着地する」。

 その様は一種の暗殺の生業としている者達に匹敵する技術だろう。

 それだけでも驚きなのだが、彼は私の視界が絶たれている事を理解してもなお、慌てて追撃に移ろうとせず、その様を観察していた。

 「身動き一つせず、地にしゃがむようにして、二十メルテ先に居る」。

 

 私は未だ視界がおぼつかない眼を閉ざし、地に伏せているミコトに対し剣先を向けると、ミコトは回り込むようにして素早く倒れた木の隙間を縫うように移動する。

 再びその移動先に剣を向けると、同じように回り込む形で逃げるが、距離は近づく事も、遠のく事も無く、同じ距離を保っている。

 数回そのやり取りを終えると、おぼろげではあるが瞳を開くと視界がぼやけた形で見える。

 

 が、正直今のままの精度であれば、無い方がかえって集中できる。


 そんな事を考えていると、無策にも「ミコトが飛び出し、一直線に私目掛けて飛び出した」。

 ディーネから教わった彼にのみ有効な索敵術も、彼がここまで近くに、かつ解りやすい魔力操作をしてくるのであれば、形で捕らえずとも解る。


 十四メルテ。彼は何も行動を起こす気が無いらしく、一回の跳躍で二メルテほど前へと進み、次の一歩へと備え脚に魔力を溜める。


 十メルテ。半分にもなれば、何かしらの行動をすると思っていたのに、彼は単調な魔力操作を行うだけで、何か別の策を抱いているようには思えなった。


 六メルテ。ココまで来ると最早呆れる。私から逃げ切れる程の技量を持った「騎士」が、ただ無策にも突っ込んできて「終わる」だなんて。


 二メルテ。彼には失望してしまった、というのが本音なのだろうか。試合の前にはどこか浮かれていた自分が居たのに情けない。

 剣その物で横なぎにしてしまえば終わる決闘になんとも呆れはて、私は素早く鞘へと剣を戻し、鞘ごと抜き、彼の無策の突進を横なぎにした。


 やがて彼の身体に鞘が触れる、その瞬間、違和感に気付き、鞘に「何か」が触れた瞬間核心へと至った。


 ミコトの身体が小さすぎる。そして鞘から伝わる重さは、軽すぎる。

 直径にして五センメルテにも満たないソレは、私の振りぬく鞘が触れると同時に破裂し、中から甘い酒気にも似た香りの液体を放出する。


 過去、何度も嗅いだ事のあるそれは、魔物<ディアブロ>の好物にして、二つの満月が揃った時魔力を内包して、地面に落ちる特徴的な木の実。

 

 いつから誤認していたのか、などと自問するよりも先に、ディーネから教わった索敵術を展開し、瞬時に後悔した。


 私の背後に、一つの塊があった。

 それはただ立っているだけではなく、試合前に見せてもらった美しく芸術品とも取れる青白い短剣を手に持ち、その切っ先があと数センメルテで、私の首を背後から刺せる近くまで迫っていた。


 やがて、私が声をかけるまえに、背後に居る「何か」は立った一言。


「リィス・アミリア。エゥアルフィーナ」


 と、口にした。その言葉は私は久しく聞いていない敗北を意味する言葉なのに、彼は前にも口にした事があるかのように感じたのは気のせいじゃない気がする。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 僕を形として認識している。

 それは先の斬撃を見舞われる前に、ディーネの声を「耳」が拾った。

 その索敵術を用いた方法はアルフィーナにとって関わりが浅い事、使い慣れていない事もわかり、であれば油断させる方向へと思考がまとまった。


 まず厄介なのは彼女が「見えている」事であり、初手で油断しきっている所で封じた。

 次に、彼女が僕の場所を正確に把握している事を理解して、無策と思わせるべく「あからさまに解りやすいよう魔力を操作してただ突っ込んだ」。

 百メートル近い射程を有するアルフィーナにとって二十メートルは手でも届く範囲、とでも言いたいのか僕の「形を捉える」のを止めて、魔力感知に切り替えた。

 その証拠に、アルトドルフにクフィアーナの実を装填し、弦を緩め歩速とあわせて射撃するその一瞬でさえ、彼女は「飛来する何か」を全く警戒していない様子だった。

 残り四メートルといったところで、身体の魔力をクフィアーナに集め、射出。接近してきた時とは比べ物にならないほど、細く小さく魔力操作を行い素早くアルフィーナの背後に回りこむ。

 やがて飛来する木の実をアルフィーナが躊躇無く(鞘ごとふってくれたため、殺めるつもりは無いのだろうが、当たったら確実に死んでたと思う速度)剣をふり、木の実が破裂した所で彼女の首裏に竜具を据え、彼女の理解が追いつくのをただ待った。


 ほんの数秒置いて、彼女が眼を閉ざしたまま、微かに振り返った事に気付き、僕は予め準備していた言葉を口にする。


「僕の勝ちです。アルフィーナさん」


 それはかつて、リアと戦って勝利を収めた時、何度か口にした言葉で、どこか懐かしい響きを宿し、自然と頬が吊りあがる。

 その頬に刻まれた印と共に。


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