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承章:第十幕:歩み出す

承章:第十幕:歩み出す


「アルフィーナ――、君の旅に同道するよ。というか、それ以外の道が無い気がする」


 別室でディーネと話していると、ミコトの居る独房を見張っていた監守から、一報を受け訪れた独房で、鉄格子の向うから彼はそう口にした。

 その顔は諦めが混じっているのも見て取れたが、それ以上にアプリールで私に接してくれたそれに何処となく似ており、彼の中で何かが変わった事を物語っていた。

 それは嬉しいし、久々に彼を近くに感じられた事に安堵した自分が居たが、それ以上に彼が何を「諦めた」のか、手に取るように解り、何故か心が痛んだ。


「……解っているのか?――私の旅は多くの困難と、命を賭さねばならない戦いがあるんだぞ?」


 私の言葉に彼はただ瞑目し、小さくうなずいた。


「……逆に、ディーネに危害が及ばないように、僕を裁く事が出来るの?」

「……無理だ。私の破邪堅装<アーヴェリック>は「魔法を無力化」できるが、呪術の類は不可能だからな……。それに、この呪術は強制的に解こうとするのであれば、両者に何かしらの被害が出る……。既にお前の命は、ディーネのそれと酷く混ざり合ってる状態だからだ」

「だったら答えは一つだ。……ディーネにこれ以上被害が及ばない方を選ぶ。……、無論君の旅に同道したら、それ以上の被害が彼女に至るかもしれない。それは解るけど、少なくとも「今」ではない。そう思ってるよ……」


 彼の言葉は、私にも理解できる。

 どっちを選んでも、ディーネにかかる被害が付いて周る。ただそれも、「今」彼自身の選択によって、ディーネに被害が及ぶよりかは良い、という選択なのだろう。

 最も、私の旅に同道したとしても彼自身が「被害」にあわなければ、ディーネにそれが至る理由も無いのだが。


「解った。――ただ、ミコト。話を聞いていたから解っていると思うが、私はお前に一つの呪いを付与させてほしいのだが――」

「良いよ」


 私は彼に課す呪いの重さを知っているが故に、彼の目を直視できず、視線がさまよっていたが、彼の間髪を入れない答えに自身の耳を疑った。


「お前、自分にどんな呪いが与えられるのか解っているのか?」

「全く知らないよ。君とディーネの会話から、歓迎するべき物ではない、それくらいの知識しか持ってない」

「……、従属の烙印という。私の命令に逆らいにくくなる物だ……。心の持ちようでは、拒否して、それを行動に移せるだろうか、その際、烙印を刻まれた者は強い苦痛を負う事になる」


 そこまで話して、彼の現状と合わせると、ミコトがどんなに私の命令を無視しても、彼自身に苦痛が及ぶ事はなく、全てがディーネに至る事を説明すべきなのか迷い、結果言わない事を選択した。


「僕がそれを受け入れたとして、君はなんて命令するつもり?」

「……迷っている」

「……今、なんて?」

「……、だから迷っていると言ったんだ……。私が最初に考えていたのは「人を傷つけるな」というものだった……ディーネがそれは止めた方が良いと言ってな」


 彼女が口にした言葉を信じるのであれば、ミコトを縛るための枷にはなりえない。例を口にしていたが、あれは彼女なりの場を和ますための冗談であろう。

 ミコトが私を「仲間」として捉えているなど、まず持ってありえん。彼にとって私は、彼自身が仕えていた主を奪ったにも等しい人間で、私の為に自身よりも強力な敵、騎士へと挑み、優しく手を引き、私をクズの狙撃から庇い、雪の花をもらう口実を作ってくれて、見回りの騎士から庇ってくれて、時折微笑んでくれて…………あれ?


 え、ちょ、え?


「……おい、ミコト」

「な、なんか表情がコロコロ変わってて、怖かったですが……何ですか?」

「き、き、貴様!わ、わ、わ、私のことをどう思っているのだ!?」


 噛まずに言えるわけないだろうが!


「……どう、とは?」


 私の挙動不審っぷりに、ミコトがドン引きしている。

 笑顔が引きつっているのがわかるが、私だって平常心でこんな事聞けるわけないだろうが!


「も、文字通りの意味だ!ど、どう思っているのだ!?」


 なおも鉄格子の向こう側に立ち話を聞く彼に食いつくと、彼は一瞬考える素振りをしてから、苦笑交じりに、


「今着ておられるような鎧がとても似合うと思います。剣を構える姿がとても凛々しくて、つい視線が向いてしまうほどです」


 そうであろう!そうであろう!なんといっても、騎士だから!しかも銀、旋、の!さらに言えばそこの長なのだ!元とは言えな!

 身から溢れるオーラはまさにソレだろうとも!

 

 ――、だけど違う!そういった意味じゃない!


「そ、そういった意味では無くてだな……」

「ん……?――、あぁ!」


 お!思いついたな!?そうだ、私が聞きたかったのは「仲間」とか「友人」とか、そういったカテゴリに属する話で!


「握った手が騎士とは思えない程とても小さくて、雪の花が好きっていう少女的なところがあって、初めて出合った時に着ていたようなドレスが似合う、とっても可愛い女の子だと思っています」


 彼がそう口にして、受け止めきった私の行動は、至って簡単だった。

 鉄格子に取り付けられている分厚い鉄製の扉を「吹き飛ばし」、彼が待っている独房に入り、衝撃で反対側の壁まで吹き飛び折れ曲がった扉を見据えたまま怯える彼の肩に手を置いて優しく微笑み、彼の耳に口を寄せる。

 

 そして。


「私の最初の命令が決まったぞ?……「まずはその認識を改めろ」……」


 そう優しく囁いた。  

 従属の烙印など、まだ刻んでいないのに、彼は既に刻まれているかのように、毎秒十回くらいのペースでカクカクと何度も頷いてくれた。

 

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