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起章:第六幕:異世界転移の理由→アイスクリームを作るため(イダさん談)

起章:第六幕:異世界転移の理由→アイスクリームを作るため(イダさん談)


 最早、昼食前の日課になりつつある「人間狩り」。最初はただ、逃げ惑うゴミを面白半分に追いかけまわしていた。それがどうだ、たった数日たっただけで追い詰められつつある。

 正直なめていた。気配断ちなどという生易しい物ではない。まだ魔法を覚えて二週間のヒヨコ、しかも二十歳未満の子供良いようにあしらわれている。

 白兵戦なら力押しができるコッチが圧倒的に優位だろうが、その距離を詰められない。その最もたる理由は、時折飛んでくる魔力針だ。実体はなく、肌に刺さったとはいえ痛みは無いが、体内魔力へのダメージを与える事が出来る。

 飛翔してくる針は直線的ではなく、私が魔力を高めれば高めるほど多くの「罠」が反応し、あらぬ方向から感知した魔力に向け、障害物を避け飛んでくる。結局、少量の魔力を持って身体強化を行い移動速度を上げても、その「罠」を仕掛けて回り着実に逃げているゴミに追いつく事など不可能。

 かといって、魔力の全てを費やし全開で追いかければ必ずあのゴミへとたどり着く前に全ての針を打ち落とせず、必ず被弾する。最初の開始の合図直後に、仕留めきれなかった時点でもはや決着が付いていたようなものだ。

 

「だけど……」


 そう、まだ青い。確かに気配の絶ち方は一級品だ。それゆえに「森に不自然な空間」が生じている。一級の相手に戦うのであれば、気配は「消す」のではなく「偽る」のが定石。その辺を見事に勘違いしている。そして、魔力針や木々を避けるためにまっすぐ突っ込むことが出来ないために距離が詰められない、というだけの事。つまりは工夫の問題だ。

 ほんのわずかに脚へ魔力を送り、身体強化を図ろうとするが、二本の魔力針が飛来する。一つは右斜め前方から、もう一つは右後ろ後方。先に到着するであろう右前の魔力針を屈んでかわし、二本目を避けるための準備動作とし、足にためた魔力を使い前へと飛び、避ける。

 着地地点へと飛び降りる前に、魔力操作を行い、右手に集めると同時に量に反応してか、五本の魔力針が飛来する。そして、同時に右手に集めた魔力と全く同量の魔力を脚へと集める。

 この魔力針には弱点が存在する。最初に量にして十の魔力を使い、五本の針が飛来するとする。その後は、同地点で十以下の魔力行使には針は飛んでこなくなる。その応用で、脚へと魔力を集めた際には針は飛来していない。

 重ねて、針は物理的な衝撃には弱く、地面や予期せぬ障害物などに当たると簡単に破壊できる。後は簡単だ。

 

「よっと」


 右手に集めた魔力で近場の木の枝につかまり、急制動をかけ止まると針はその速度変化についてこれず、地面や障害物とはなり得なかった木に当たり壊れる。そして、そのまま地肌に頭が見えている岩をみつけ、文字通り「拾い上げる」。大きさにして、自身の五倍程度だろうか。重さはたぶん十倍近いだろう。

 それを上空へと放り投げる。同時に脚へとためていた魔力を使い、投げた岩の位置まで飛び上がる。高さにして百メルテ(メートル)くらいだろうか、ある程度森が一望できる。そして岩へと両足が付くように姿勢制御を行い、次に自身の体内残魔力の6割を使って、目へと集め、ゴミの情報を集める。

 なんとなくの方角はわかっていたが、より正確な位置を上空から確認したかったためだ。当然そんな事をすれば、もはや数えきれない程の魔力針が飛来する。遥か上空をめがけて。


「みつけた」


 のんきに地面で棒立ちしている気配を感じる。直接視認できたわけではないが、木々の葉の向こう側に輪郭が浮かび上がる程の気配を感じ取れる。あとは簡単だ。眼に集めていた魔力を全部身体へと戻し、足へ移し少しため、岩へと流し込む。

 そして、残った魔力の二割を操作して、足へと溜め、遥か上空の岩を足場にゴミをめがけて飛ぶ(落下)ため使う。無数の針へと突っ込む構図となってしまうが、今の針は岩に流し込んだ魔力を対象に飛来しているため、私自身を「障害物」として認識し、回避行動ととる。

 

「仕留めたぞおおおおおおおおおお!」


 地面へ着地と同時に土埃が舞い上がり、仕留めたか確認はできていなかったが、感触からして………。

 

「リェイルゥ。リィス・アミリア。エゥフェリア」


 木の枝の腰かけ、そう悪戯小僧ぽく微笑むゴミ虫は、いつも以上にむかついた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「えぇ。僕の勝ちです。フェリアさん」


 そう、グレインガルツの言葉で告げる。フェリアさんは精霊を一ヶ所に集めて、デコイにした所にクレーターを作り、苦虫をかみしめた様な表情で立っていた。顔には汗が噴き出しており、フェリアさんの綺麗な金髪が張り付きどことなく妖艶に見えた。

 

「そう?この距離なら、君を仕留める事もたやすいよ?人間モドキ」


 最近、ゴミから昇格して人間になったけど、なぜか「モドキ」が付き、一度たりとも名前で呼んでもらえていない。あの幻術の時に呼ばれたのは無論ノーカン。


「いいえ、僕の勝ちです。そこから一歩でも動いた瞬間、仕留めます」

「……チッ」


 フェリアさんの舌打ちを聞くのこれで何回目だろうか……。続けて、腰に釣っていたポーチから照明銃を取り出し、真上に向け打ち上げる。

 それは二人の試合の時のルールで負けた方が照明弾を打ち上げ、イダさんに試合が終わった事を伝える物であり、お互いの照明弾の色は違う。

 

「卑怯者め、正々堂々と戦え。貴様に騎士道は無いのか」


 銃をしまいつつ、さも汚物でも見るかのような目で、小言を言われる。

  

「いやいや、だってフェリアさん脳筋じゃないですか。接近戦なんて絶対に嫌ですよ……」

「フッ。貴様などに褒められても嬉しくなどない」


 そう視線をそらし、頬がやや赤くなっていた。聞く人が聞けばどう考えてもバカにしているとしか思えない言葉も、フェリアさん曰く「脳まで筋肉でできているっていう事は強いのだろう?」と言われ、イダさんはその場で手で顔を覆い、へたりこんだ事がある。

 グレインガルツに飛ばされ、二週間経ってわかってきた事は、イダさんはフェリアさんの事を「姉みたいな人」と言っていたが、トラブルメーカーなのはどう見てもフェリアさんで、おつむの具合が残念なのもフェリアさんだった。つまりどっちかっていうと、僕の目から見ると姉なのはイダさんだった。

 そのフェリアさんが得意な事はただ一つ。「魔力操作の練度」だそうで、主に身体強化や、物質強化に特化しているらしく、模擬戦(フェリアさんはガチで殺りにきてると思われる)で相手をしてくれる。

 というのも、この世界での職についてだ。話を聞く限り、僕を元の世界に送り返すのは難しいらしく(戻るつもりは無いが)、この世界で生きていくうえで、手には職が必要であり、その職には大きく分けて三つに分類されている。

 一つは、生産職。鍛冶、木工、金工、革細工、裁縫など用意されているそうだが、これらは主に「親が子へと技術を伝えていく」業種らしく、幼いころから、師であり親でもある存在から英才教育を受けるのだという。よって、ある一点を除いてあきらめた。

 二つ目は、採取職。木材、鉱石類、宝石類、繊維材、食材などの天然に用意された素材を集め、日々の糧とする職業。長年の経験から、収穫量も前後するとかなんとか。

 三つ目が、傭兵職。ギルドと呼ばれる各町にある施設に依頼される「悩み事」を解決することで、収入を得る職業。これには明確な基準は無いらしく、最初の認定試験さえ通過すればあとは自由に依頼を受けられるが、難易度が高ければ己の命を報酬と天秤にかける必要があるらしい。

 この三つの話を聞いて、選んだのは当然「二つ目」の採取職だった。採取物に関しては、イダさんが正しい情報をくれて着実に知識量を増やしている。そんな採取職なのになぜ戦闘訓練をしているか、というと理由は簡単だった。

 

「お前など、ディアブロにでも食われてしまえ」


 そう言い、衣服に付いた汚れを叩き落とし、クレーターから出て一人森の中、イダさんの家に向かい歩を進めるフェリアさん。

 ディアブロという存在。イダさんが言うには、魔物という扱いらしいが、一度も見たこと無いからか、いまいちわかっていない。スライムの様な軟体系のモンスターとかも居たりするのかもしれない。

 それゆえ、イダさんから「一人で森を歩けるように、基礎体力はもちろん、最低限の戦闘技術も身に着けてくださいね」と言われ、毎日フェリアさんに命を狙われるという素敵なイベントが発生しているわけだ。

 

「待ってください。一緒に帰りましょう」

「知らん、置いていく」


 そう言い、フェリアさん両足に魔力を送ったのだろう、ほんの微かに歩を進めたわけでもないのにフェリアさんの足元に砂埃が舞う。それと同時に、前へと飛び、木々の間を抜け早々に姿が見えなくなる。

 いつ見ても、魔力を必要な部位に送るのに必要な時間が短く、正確に四肢に送り、全く淀みが無い。イダさん曰く、「戦闘に使う身体強化に必要とされる要素は三つあり、①に速度、②に正確さ、③に強度」との事で、フェリアさんはそのいずれもトップクラスなのだとなぜかイダさんが自慢気に言うが、いかんせんフェリアさんである。

 何が言いたいかというと、いい加減なのだ。コツを教えてくれと言っても、「わからん。感覚で覚えろ」の一言で、あと説明に擬音語をかなり多用し、理解に苦しむ。結果、今の様な模擬戦へと発展した。

 初日はガチで殺りに来ているフェリアさんから逃げるだけで精一杯で、反撃など全くできず、逃げる→追いつかれる→ギブアップ(照明弾)だった。今でも、真っ向からフェリアさんと戦うのは絶対に無理だが、なんとか逃げ切る、そして罠にはめるというのはできるようになってきた。

 僕の中での最低限の戦闘技術は「死ななければ良い」という保身の技術、逃げ切る技術を欲しているわけで、相手の命を奪う事までは考えていない。それゆえに身に着けている技術のほとんどはいわゆる「対ディアブロ用」の技術ばかりだった。

 

「早く一人前になりたいね、ホントに……」


 誰が聞いてるでもなく、そう呟き、僕もフェリアさんを見習い、脚へと魔力を送り、森の中を駆け抜ける。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 イダさんの家に戻ると、イダさんとフェリアさんが家の外で待っていてくれた。

 イダさんはいつもの黒いローブのフードを眼深くかぶり、フェリアさんは幻術を使い耳を短くし、頬のウィスパを隠す。それにどのような意味があるのかわかっていないが、何故か二人は家の外に居るときなどはこういった格好をする事が多い。


「ふふ。今日もミコトの勝ちでしたね。最近ずっとミコトの勝ちが続いてますね」

「イダ。この人間モドキは卑怯なんだよ。騎士道精神に欠けるね」

「と、リアは言ってますが、さっきまで「イダ。アイツはイダの騎士にすべき。才能は私の比じゃない」ってべた褒めしてましたから」

「いいいいい、言ってない!」


 フードを被っているイダさんの表情はうかがえないが、確実に微笑んでいるんだと思う。フェリアさんは平静を保てなかったのだろう、幻術が解けてしまい慌てて、再度幻術をかけなおしている。


「勝ってないよ。逃げ切っただけ」

「それでも、ミコトの勝ちです。私はミコトに「最低限の戦闘技術を身に着けてほしい」と言いました。リアに勝てる技術まで行ってしまうと、それは「最大限の戦闘技術を身に着けてほしい」という事ですから」

「これからも、精進しますよ。先生?」


 フェリアさんに向かい「先生」というと、短く鼻を鳴らし家の中に入って行った。


「あれで結構ミコトの事を気に入っているのですよ?」

「とてもそうは見えないんだけどね……」

「教え子が優秀だと、先生は嬉しいものですよ。私もそうです。はい、では生徒ミコトに問います」


 始まった……。これがイダさんが行う昼食前の抜き打ちテストだ。


「今、私たちが居る大陸の名前。最寄りの七大都市の名前は?」

「円燐大陸ブリフォーゲル。その北部に位置する雪原都市アプリールに近い白の森の中」

「正解です。では残りの七大都市の名前は?」

「炎兵都市アルディニア。深海都市ティルノ・クルン。風幻都市フェリアーニ。金鉱都市レインガッツ。雷光都市リフェイン。光城イリンナ」

「大正解です。では入門編はそろそろ終わりにして、次からは少し難しい物を学んでいきましょう」


 そう嬉しそうに喋るイダさんは、フード姿のままだったが微かに見えた口元は両端がつりあがっていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ん~~~~~!甘いです!冷たいです!ミコト、貴方は最高の料理人です!!!」


 そう言い、小さい匙を力強く握りテーブルを何度も叩き、嬉しそうに椅子に腰かけたまま足をばたつかせている。


「本当にこんな事でいいのかね……」

「良いんです!ミコトは私に「あいすくりーむ」を作るためにグレインガルツに来たに決まっています!」


 イダさんの提案を受け、居候として生活させていただくにあたり、なにか手伝える事はないか、と聞くと、フェリアさんは料理が出来ないため、料理はほとんどイダさんが作っていると話を受けた。

 その手伝いを申し出ると、グレインガルツでは台所業務ができる男性は愛妻家であるという風潮があるらしく、一緒に台所に立つと最初の方はイダさんが恥ずかしがり、何もできなくなるという事態に陥る事がわかったため、昼食後のデザートを提供させていただくという事で話がまとまった。

 大体の調理器具を教えられ、材料の確認後、アイスクリームを作る事に決め、昼食前から準備をはじめ、完成した物をイダさんに提供すると、毒味と称しフェリアさんが全部食べてしまい、冷やしていた型についていたアイスを一匙分集め、イダさんへ差し出すと、食べた瞬間あまりの美味しさに泣いてしまった。

 そして美味しい物を一人で食べたフェリアさんへ怒りの矛先が向いたのは言うまでもなく、三日間も口をきいてもらえず、フェリアさんはその期間、歩く屍と化していた。 


「そんな理由で異世界に飛ばされた人間なんて、なんか悲しいよ……」

 

 元々、施設では子供たちが自分で自分のお菓子を作っていたため、お菓子作りに限って言えばかなり自信があったが、こうも喜んでもらえると本当に嬉しい。

 一応、フェリアさんの分もカップに分け、冷室(氷の精霊を用いた物を凍らせる箱の事)に入れておくと翌朝には空になった容器が流し台においてある。

 

「本当にミコトは食べなくていいのですか?」

「うん。料理って、自分が作ったものを人に食べてもらって、笑顔になってもらう方が嬉しいから。それだけでお腹いっぱいです」


 実のところ、冷室が狭いのだ。元は冷凍保存するための薬草を入れておくための場所だったらしく、その薬草を隅に寄せたスペースで、やっと二人分しかできない。もちろんこの事を知っているのは僕だけだ。


「ん~……」


 そう少しうなるように声を上げ、匙を加えるイダさん。


「では、私のを一口食べてください!私もミコトの笑顔が見たいのです!」


 はい、それはアイスが美味しくて笑顔になるんじゃなくて、間接キスが嬉しくて笑顔になります。絶対。


「まぁ、そういうなら……」


 えぇ、もちろん気づかぬふりで頂きますとも。


「はい、どうぞ♪」


 そう嬉しそうに告げられ、匙にのったアイスを差し出される。いわゆる「あーん♪」である。今度こそ、本物のイダさんの「あーん♪」である。

 味わいたい所ではあったが、僕も気恥ずかしい部分があるためか、すぐに食べ、飲み込む。えぇ、今気づいたんですが美女に「あーん♪」されると、味わからないんですね。新発見です。


「美味しいですよね、ミコトの「あいすくりーむ」!」


 再び、アイスの山に匙を指しイダさん自身の口に運び、含めた所で、表情含め全てが止まる。

 そして徐々に顔が赤くなっていき、耳も下に下がり始める。間接キスに気づいたのであろう、その表情は何度みても可愛いものだった。


 ――シュゥゥゥゥ…………。


 と、音が出たわけではないが、手に持ったいたカップに入ったアイスはただの生クリームの飲み物と化した瞬間だった。

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