起章:第五十五幕:人を憂える
起章:第五十五幕:人を憂える
「ねぇ、布部さん。今日こそ皆でカラオケ行こうよ」
「いつも一緒に行ってたじゃん。また紘の歌、聴きたいよ」
授業が終わり、引き出しから教科書を取り出している時、二人の女子に話しかけられる。
一人は学級委員長でもあり、美人な事で有名な子。
一人は何部だったか忘れたけど、何かのエース。
「……、ごめん。今日はその……ビラ配りの日だから……」
尊が行方不明になってから、半年以上経過していた。
最初は誰しも「すぐに戻ってくる」、「きっと見つかる」などと前向きな言葉をかけてくれていたのに、今では誰しも顔に「諦め」が入っているようだった。
今となってはまるで私一人で尊を探しているかのように錯覚する事がある。それはもちろん間違っているのだろうけど、私以上に尊を知っている人なんて居ない。
だから尊がいそうな場所を我武者羅に探し回って、この扉を開ければいつもあの優しい笑顔を振りまいてくれた人が居るんだ、と期待した。
だけど、それは叶わなかった。
寮室、私たちが育った施設、尊がよく顔を出したゲームセンター、喫茶店、本屋。無理を言って聞き出した、尊の実家。
その全てに尊は居なかった。それ故に皆は「諦め」が混じり始め、今となっては私もソレに毒され始めたかのように感じる。
上手く笑えなくなっていた。
尊が居なくなる前のように微笑んでも、「少しは気持ち切り替えた方が……」と声をかけられる始末。
今だって、クラスメイトが気を遣って声をかけてくれたのに、それに応えられないでいた。
「あの……、私あまり大芝くんの事知らないんだけど、さ……。き、きっと元気にしてるよ?ほら、いつだったか大きな荷物を背負ったお婆ちゃんを助ける為に遅刻した事あったじゃない?あれ、最初は誰しも嘘だと思ってて、先生だって怒ってたのに後から学校に感謝の電話があって先生とか腰九十度に曲がるくらいで謝ってたよね」
「あ~、あの学校が建ってる地区の地区長だとかっていうお婆ちゃんでしょ。なんかそれらしい話を本人から聞いたことあるよ。大芝くんの事「とっても優しい子だ」ってべた褒めしてた」
「優しい」。人を憂える事。そう、尊は「優しい」。誰しもそう評価する。
一見線が細く小柄な事から中性的で。いつも笑顔を絶やさない。誰かが困っているとすぐに手助けしようとする。
虫も殺せないといったような顔をしていて、誰しも評価するように誰に対しても「優しい」。
「でも、それは――」
私は知っていた。尊はただ「優しい」んじゃなくて、「我慢をしている」事。「嫌われたくない」という思いを抱き、誰に対しても優しく接して「自分の居場所を作ろうとしていた事」。
私は知っていた。尊は己に対する事はどんなに馬鹿にされても、「優しい」ままで居られる。例え馬鹿にした相手でさえ、優しさをもって接しきる事が出来る。
私は知っていた。尊に家族が出来れば、それはきっと不変の居場所として、尊を留まらせてくれるだろう、と。
私は知っていた。尊の第二の家族に危害が訪れ、尊の居場所を脅かすような状況になれば。尊はきっと「優しい」尊では居られなくなる。尊が壊れてしまう事を。
だから、私は知っていた。今、尊がどこで何をしているのかは知らない。でも、尊が己の考えで戻らない事を選んだ時、きっと尊の周りには尊を「家族」として迎えてくれている人が居ることを。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ニナさんをビルクァスさんに預け、僕は白の森へと、自分の家へと歩を進めた。
街道を包み込む木々にはいつも枝に翠の葉をつけ、小鳥やリスなどの小動物が度々顔を出したが、葉は焼け落ち、動物は全てが居らず時折地面で冷たくなっているものを見つける程度になっていた。
そして何より困った事が、精霊が全く居ない。
アルフィーナさんとの戦いを止め、ニナさんを背中に背負ったとき、耳元でささやかれた事。その言葉を言ったニナさんは、そのまま意識を失ってその言葉の意味を知ることができなかった。
それゆえに己の目ではなく、精霊の目を用いてすぐにイダさんの安否を確認しようとしたが、森全体が火に包まれていたからだろうか。
いつかの赤の森のように、全く精霊が居ない地帯となっていた。
確認できたのはただ森全体が燃え、家がある場所も確実に火に飲まれていた事だ。
これは、ひどく焦燥感にかられる。
結果、ビルクァスさんやミルフィの反対を押し切って、白の森へと飛び出した。
「ミコト。あの魔族<アンプラ>とはどういった関係なんだ」
言うまでも無く、アルフィーナさんは僕についてくるの一点張りで、それどころかある「印」を元に、ニナさんが森の中を歩いていた経路をたどり、僕の前を走ってくれていた。
その「印」というのは、ニナさんが歩いて居たところだけ「魔法による火」であり、それ以外は普通の「火」であるという事。
それが何の意味があるのか解らなかったが、アルフィーナさんが先導する道は彼女が火に触れそうになった瞬間、何もなくなっていた。
何かの魔法なのだろうけど、どういった原理なのかまだ理解が追いついていない。
「……まだ、あの人を害そうとしているのですか?」
「違うさ。……それどころか驚いているんだよ。お前を始め、あの村の連中はアレが魔族<アンプラ>だと知って尚、助けようとしている。あの村で生活している者たちは自分達が何を相手にしているのかわかっているんだろうか……」
「……解っているはずですよ。それでもあの「人」を助けようとしているのは、あの村に居る人たちにとって「掛け替えの無い人」って事なんじゃないですかね?」
「ますます理解に苦しむな……」
アルフィーナさんは振り返りながらそう話したが、やがて苦虫でも噛み潰したかのような顔をして再び正面を捉え地面を強く蹴り先導してくれる。
「……アルフィーナさんは……、魔族<アンプラ>……いや、亜人種が嫌いですか?」
「……どうだろうな。ただ私は「向うから嫌われている」のを自らが努力して好かれようとは思っていない。嫌悪を好意に変えるのには時間がかかるからな……。その点で言えば、七枝の一振り、ビルクァスがあの村に居た事には驚かされた」
「……嫌われたままで良いんですか?」
「お前は変な事を聞くんだな。石を投げつけられる生活と、投げつけられない生活。お前ならドッチを選ぶんだ?」
「いや、いくら亜人の方でも人をみれば見境なしに石を投げるってわけじゃないですよ?」
「今のは物の例えさ。……でもな、ミコト。私があの村に入った時、リンファ族の女性を下ろしてすぐに出ただろう?……ミコトはアレをどう思った」
火の中を走りながら、前を走るアルフィーナさんにそう問われ、己の中の答えを口にした。
「……なんで、という程度には疑問を抱きました」
「フフ。正直者め。少しは労われ」
アルフィーナさんは苦笑すると再び前を見据え、表情が見えなくなった。
「……私もな。どうしたら良いのか解らないんだよ。あの村に入って、多くの亜人種に見つめられ……いや、睨まれた時、私にとってはそれは石であり、その石がミコトには向けられていない。だったら、私が居なくなれば、誰だって石を手にしないはずだ。……そうすれば、お前も気づかない。そう感じたんだよ」
アルフィーナさんがどんな顔をしているのか、なんとなく想像がついたけど、続けて放った言葉は僕を大きく揺さぶり、聞いたのを後悔した。
「でもな――、魔族<アンプラ>だけはダメだ。アレは所詮人とは相容れない。……今回は別件で訪れた場所に偶々魔族が居たから見逃しただけだ。コレが正式な依頼であり、それを私が銀旋として受けたのであれば、たとえミコトが止めに入ったとしても確実に殺していた自信がある。それくらいに奴らを――」
人を憂える心が、優しさである。っていつだったか布部が言ってた気がする。
アルフィーナさんは亜人を憂える心を持っている。それでもアルフィーナさんの口からは怒りと共に、言葉が続いた。
「憎んでいるよ――」
-登場人物-
大柴 尊:おおしば みこと:
出水高等学校2年。男子。17歳。グレインガルツでは「ミコト・オオシバ」と名乗っている。1歳の時、火事で両親と死別。DT。精霊を見る事が出来る。精霊魔法が得意。12月6日生まれ。料理、特に菓子作りが得意。部活帰りのある日、駅で謎の男性に異世界に転移させられる。異世界グレインガルツに飛ばされ、イニェーダ、フェリアと出会う。あと少しでフェリアに穢れを知らない息子を切られる所だった。ゲームや漫画などが好きで、特にRPG物が好物。初めて訪れたアスール村で、フィリッツ、ラスティル、ビルクァスからの依頼で赤の森と呼ばれる森へ赴き、キーナを助ける。イニェーダを救うため、竜の討伐へ赴く途中で、アルフィーナと出会うが、彼女をいきなり斬りかかってきたことから、男だと思っている。結晶竜を発見し、竜晶石を得るために立ち向かう。アリュテミランの涙を用い、言葉のやり取りを重ねられるようになる。竜とある条件を交わし、竜晶石を得てアスール村へと帰る。竜の加護<リウィア>を受け、「鱗を持つ生き物の声」を聴くことが出来るようになる。イダが助かると解った後にも、竜の殺めたことを悔いている。けが人であるイダと、屋敷に庭先で眠りこけてしまい、朝になってニナに見つかり怒られる。兎のしっぽ亭で雪花祭<アンリージュ>の事を教わり、イダを誘ってみようと心に決める。雪狼騎士団の要求に応じるため、ある奇策に出る。アプリールに向かう道中、騎士達と少しでも打ち解けようとするが、完全に恐れられてしまう。アプリール内で服を買いきた店で、トラブルに見舞われる。アルフィーナに下着を覗かれた事を黙る代わりに、協力するよう脅される。アル「フィーナ」とアスール村へ向け、歩きつつ、デートスポットの下見をしている。道中、アル「フィーナ」に手を握るよう言われる。雪の花<フェン・タイ>を次々に開花させてしまい、周囲からの目線が突き刺さっている。アル「フィーナ」を押し倒し、リュスの放った魔力弾<タスク>からの回避に成功する。普段の一人称は「僕」だが、これは他者に嫌われたくないゆえに角を取って丸く見せているだけ。どうでも良い相手には「俺」になる節がある。リュスとの決闘に備え、準備をしている。アルフィーナと別れ、リュスと共に森へと赴き、リュスが準備した決闘に挑む。リュスとの決闘中、少女に出会い、リュスがその少女をめがけ矢を放ったことに怒りと同時に、焦りを感じる。アルフィーナに何がしたいのかと問われ己の想いを口にする。リュスとの決闘に勝利する。アスール村へ無事帰還を果たす。ガルムに預けていた武具を受け取る際、ガルムに武器を作らせて欲しいといわれる。ビルクァスに促され、白の森へ赴こうとするが、ニナの異様な気配に、彼女の元へ馳せ参じる。ニナからイダを守れなかったという言葉を聞き、焦燥感にかられ、火に包まれた森の中をアルフィーナと共に駆け抜ける。
アルトドルフ:
尊が装備している右手全体を覆うガントレットについているクロスボウ。腕部分に固定されており、状況にわけて手甲を回す事で三段階まで広がり、飛距離、威力を調整できる。非展開時は菱形の金属の板に見えるため、バックラーとしての役目も果たせる。小さい物であればなんでも矢弾にすることが出来る。イダ製作。現実世界の英雄「ウィリアム・テル」が住んでいた地名から命名。
ヴィルヘルム:
尊の左肩に吊っている、クフィアーナの大樹の枝から削りだした八十cmの弓。弦はなく、使用時に尊が魔力により弦をはる。矢弾は魔力弾<タスク>を使用し、尊の正確なイメージ力に応じ、脅威の威力を発する。フェリアの指導を受け、尊自身が製作。現実世界の英雄「ウィリアム・テル」のウィリアムの別名、「ヴィルヘルム」から命名。
イニェーダ・ルミル・アリシュ:(イダ)
蒼い目、黒髪、長髪。魔王ベルザフィードの娘?顔のタトゥは群青色。○18歳?肌が病的なまでに白い。魔王ベルザフィードの娘。魔法薬師。黒いフード付きのローブを羽織って、尊が目を覚ますのを見守っていた魔族<アンプラ>の少女。尊に対し友好的。料理が上手。フェリアの事を「リア」と呼ぶ。尊同様に精霊を見る事ができ、声も聞く事が出来る。感情がすぐ顔に出てしまう。強引に物事を運ぶためには「笑顔」で対応する。精霊さえも強引に頷かせる眼力+圧力オーラを有する。甘い物が大好きで、かなり純真。フェリアに幻術で化け、ミコトに騎士の位を授ける。その事をフェリアにばれ、怒られていた。フェリアと一緒にミコトがアスール村へ行った事で、自らも行きたくなり行動に出るが、恐怖心に勝てないでいた。フェリアにミコトを異性として見ているだろう、と問われる。ミコトのケガを治す。ミコトが風呂覗きをしていたことをフェリアから聞かされる。赤の森での事件以降、ミコトに甘えるようになり、フェリアを悩ませる。フェリアが深海都市ティルノ・クルンに赴いており、居ないため代わりにお使いをミコトに頼む。採取中ディアブロに絡まれるが瞬殺する。最後にミコトに扮装したディアブロと出会い、抱きしめられた際に魔封じの刃<スペルベイン>を突き立てられる。命尽きようとしている。ニナの事をニィナフェルトと呼び、親しい間柄の様子。幻術を解き、再び意識を失う。施術そのものは成功し、ミコトが持ち帰った竜晶石のおかげで、後は目が覚めるのを待つだけとなった。無事に目覚め、傷口の痛みは残すものの好調と言える状態だった。自らの手で、竜の命を絶った事を少なからず悔いているミコトに言葉をかける。ミコトと庭で眠りこけていた事をニナに発見され、怒られていた。傷も癒えたため、白の森へ戻ろうとしている。ミルフィールの送りで、白の森の入口まで来たものの、残りは一人で帰る。家に帰り、ミコトの帰りを待つが、ミコトが自分にとってどういう存在なのかを再確認し、結論へといたる。
アルフィーナ・バルディール:
銀髪を後ろで結っている。少女。銀目。神々の天恵、破邪堅装<アーヴェリック>を有する。アルフィーナにとって「害」となる魔法を強制的に無効化できるため、事象改変魔法や阻害魔法を含め強制的に無効化できる。銀旋騎士団の団長。王令を受け、旅立つ。目的地はアプリール。人間。雪原都市アプリールの長、クィンスの助力を得るためにアプリールのアリアーゼ城へ赴く。金銭感覚に疎い。尊に男だと思われ、逆に尊を女だと思っている。ミコトの拘束<?>を解かれ、竜の咆哮が聞こえた方角へ歩みを進め、一体の竜の死骸を見つける。傷口から、強引に命を奪ったわけではない事を知り、祝福を捧げ、竜の爪の間に埋められていたフィクスィの花の芽に気づき、目を細める。クィンスに頼みがあり、アリアーゼ城へ赴き願い出る。が、代わりに雪花祭<アンリージュ>に出るように言われる。アリアーゼ城内にて過ごしている。半ば軟禁されていたが、自力で脱出したはいいものの、騎士団員の人数まで把握できておらず見つからないよう服屋の試着室に隠れていた。ミコトが試着を終え、前を通過するさいに同じ試着室に引き入れる。服屋の店主に結晶貨を叩きつけ、困らせる。ミコトへ姉妹の有無を問い、自らと同じミコトに妹がいる事を聞かされ己の妹の事を一瞬思い出し、表情をゆがめる。ミコトにフィーナという偽名を伝え、街を「恋人」に扮して歩こうとしているのに、手も繋いでいない事に疑問を持つ。可愛い物がかなり好きだが、それを隠し毅然と振る舞おうと意識している。それ故に雪の花<フェン・タイ>も最初は要らないと言っていた。特別な誰かを思っているわけではないが、それでも何かが咲くのでは、と考えている。ミコトの事を想い、エーデルワイスを開花させる。イニェーダとフェリアが意図して語らなかった、魔大戦についての話しを聞かせる。リュスの発言から、自分が森の中で遭遇した騎士がミコトだったと気づかされる。ミコトが行使する謎の拘束魔法を目の当たりにして、「魔法」ではない事を理解する。聖具についての知識もあり、今回使われる神判の約定<ジェシア・オルグ>についても知っていた。ミコトが魔族<アンプラ>に対し、少なからず思う事があるのを理解する。極がつくほどのぺったん娘であるがゆえに、背中に背負ったリンファ族の胸の大きさに若干の殺意を抱く。ミコトと分かれた後、森の火災の原因を調べるため、森へと入るとニナと遭遇する。一瞬の隙を突き、ニナを殺めようとするが、ミコトに割って入られ、剣を止める。ミコトが少しでも早く家へ帰りたいという願いを叶えるために、同道してニナの魔力暴走によって生じた魔法による火を目印に、家へと歩を進める。
漆黒のヴェールの女性:
エルフ。リンファ族。ベージュ色の髪を宿し、顔全体を漆黒のヴェールで隠し、表情が全く見えない。腰にはレイピアと、付呪剣と呼ばれる宝石の刀身を持つ短い曲剣を持っている。アプリールとアスール村とを繋ぐ街道の外れ、森の中に倒れていた。アルフィーナの計らいで、アスール村へと送り届けられる。
フェリア・ムーア:
碧眼、金髪、短髪。魔族<アンプラ>。顔のタトゥは深緑色。脳も筋肉でできているほど強い(自称)褐色系の肌で活発そう。イダよりも身長が高い。イダと対称的に、動きやすい服装を好み、羽織っている。エクスカリバー(※ただの鉄のダガー)の保有者。尊に対し、わかりやすすぎる敵意を向け、殺意も隠さない。恐らく魔法が使える。尊を亡き者にしようと、暗躍する。料理などは物を「焼く」だけならできる程度で、イダの家に居るときは基本、イダが料理を行う。イダの料理に毒物を混ぜ、尊に提供するが、悉く失敗。最終的に幻術魔法を使用してイダに扮装し、尊に接触。信頼させ、劇薬を盛り意識を奪う事に成功する。とみせかけて、実は尊の考えで飲んでおらず、口に含んだ程度だった。お脳みその出来がよくなく、かなり純真。世界の真実をイダから教わり、しばらく立ち直れなかった。ミコトが最初に作ったアイスクリームを毒味と称し全部食べてしまい、イダから怒りを買う。以降三日口をきいてもらえず、歩く屍と化していた。ミコトの戦闘技術を評価し、イダには正直に話すが、ミコト本人には言わず「ゴミ」「人間もどき」などと暴言を吐く。褒められるという行動に弱い。尊に毒され、尊の現実世界の軍隊用語を覚えつつある。長年愛用していた馬車をイダに粉砕されたが、新調した荷馬車で深海都市ティルノ・クルンへ用事をこなしに向かい、帰ってくる時にミーミクリーを倒す。イダの家につくが二人が居らず、気配と残り香からアスール村へと歩を進める。イダの現状を見聞きし、涙を流す。ミコトの帰還時、なんと声をかければよいのわからず、ニナに尋ね、己の想いを口にする。ミコトの事を家族として受け入れ、その身に宿した契約を聞き出す。イダが庭先で眠りこけていたのを知り、あえてスルーしていたことを、ニナに注意され、怒られている。ミコトにイダの引きこもりっぷりを再確認させ、紋について聞いてこないミコトを一層身近な存在だと認識するようになる。ミコトの契約を果たすために、竜の卵を携え、炎兵都市アルディニアへと赴く。
ニナ・ルナディア:ニィナフェルト・ウィル・グレイシス
赤瞳、赤髪。魔族<アンプラ>。顔のタトゥは深紅色。女性。アスール村の村長。ナイスバディ。ドS。イダ同様にどこか、高位な感じがする女性。元・兵士らしく、フェリアの上官だった。私兵でもあるミルフィを溺愛するあまり、ラスティルと協力して「可愛く着飾る」のを趣味としている。ミルフィに紋を有している事を見られるが、彼女に受け入れられる。魔大戦での大英雄、炎神ニィナフェルト本人。イダが庭先で眠りこけていた所を発見し、原因を作ったミコト、フェリアを怒っている。ミルフィールに「お母さん」と呼ばれたことで、頭のネジが飛んだ。かなりの心配性。雪狼騎士団の要求をはねのけようと奮闘するが、ミィコの登場に古傷が開く。ミルフィに疑問を投げかけられ、イダとミコトの関係を思い出し、同じようになれればという想いを持つ。ミルフィールに対し、魔大戦の理由を説明する。かつて魔王ベルザフィード率いる軍勢の将として戦っていたが、イニェーダの計らいでフェリアと共に暗黒大陸ルカーシャを脱し、人間勢へと加勢した過去を持つ。アスール村に張り巡らせていた結界を、尋常ならざる気配の存在が原因で破壊される。アルフィーナと対峙するが、その容姿はいつもとはかけ離れ、深い悲しみを背負っていた。感情の制御が出来ず、体内魔力が暴走へと至り決壊しかけていた。ミコトが放った魔力針<ファントムダート>で魔力を一時的に奪う事で暴走へ傾いていた魔力を抑える事に成功する。意識不明の重体。ミルフィとビルクァスに託す。
ミルフィール・トゥーヴェ:
灰色の髪。オレンジ色の瞳。狼タイプのドゥーギー(犬人間)。20歳。見た目は12歳前後。ニナに心酔している様子。「兎のしっぽ亭」が怖いようで、近づくにつれ欝々真っ盛りになる。ラスティルの魔の手が終わり、キーナと湯浴み後、ゴシックドレスしか衣類がない事に絶望しつつ、身に着け皆の前に姿を現す。自らを人同様に優しく接してくれるミコトに微かな恋心を抱く。ミコトの代わりように少し恐怖する。イニェーダとニィナフェルトに紋がある事に戸惑う。元は炎兵都市アルディニアにて最も危険な灰と煤の掃除を行っていたが、赤宝<ベルク>の暴走により、辺り一面火の海と化した現場でニナが救い、生還した唯一の人物。引き取り手が居なかった事で、ニナが名乗りを上げ、ミルフィール(太陽)・トゥーヴェ(二つ)と名付ける。大きな火を前にすると、立ちすくんでしまう。人の焼ける臭いが苦手。ニナから事前に準備されていた魔霊銀<ハイ・ミスリル>のピアスを受け取る。ニナの生い立ちを知り、身体が弱い理由を知り、「母」として認識するようになる。ミコトを「兄」として慕う事の許可を求め、「二度と自らを卑下しない」という条件のもと了承される。ニナを「お母さん」と呼んだだけで、明らかに別人になったかのようになり、その様子を見て恥ずかしがってしまう。ミコトが雪花祭<アンリージュ>の存在を知らない事に驚く。同時に、雪花祭<アンリージュ>に一緒に行きたい人が確実に自分出なかった事に若干ショックを受ける。兄が姉になった様子を見ており、「女として負けた気分です……」と言葉を残した。イニェーダを白の森の入口まで送り届ける。アスール村へと帰ってきてから、ニナにある疑問を投げかける。ニナから魔族<アンプラ>の話を聞く。ミコトが無事だったことに嬉しくなり、ニナの言いつけ通り料理を作りに行く。ニナの状況を見聞きし、涙をながし、火の海に飛び込もうとするミコトを止めようとする。
フィリッツ・アストル:
茶髪、ラヴィテイル(兎人間)、赤眼。男性、25歳。料亭「兎のしっぽ亭」のマスター。ラスティルの兄。人間種を嫌っている訳ではないが、亜種のみの憩いの場を作りたいという目的から、「兎のしっぽ亭」を開く。ラヴィテイルの中でも珍しい、垂れ耳をしている。キーナの事が好き。雪花祭<アンリージュ>に向け、キーナとアスール村の仕立て屋へ赴いていた。ミィコの存在に若干心を奪われる。
ラスティル・アストル:
白髪、ラヴィテイル(兎人間)、赤眼。女性、20歳。料亭「兎のしっぽ亭」の料理番。フィリッツの妹。自分の加護と同じ、水属性の精霊が見える。自分にだけ見える異様な光景に、驚いている。ミルフィさんをレ○プしているとしか思えない。ミコトからシチューの作り方を習う。ミコトが雪花祭<アンリージュ>の事を知らなかった事で、ミコトと「野生児」だと認識する。と、同時に自分達獣人を人として接する理由を理解する。雪花祭<アンリージュ>についてミコトに説明する。ミィコの誕生に一枚かんだ。「私は恐ろしい物を生み出した……」というのが本人の言葉。
キーナ:
女性。赤眼。ショートヘアー。フィリッツの想い人であると同時に、キーナ自身もフィリッツの事を好いている。フィリッツからの手紙を受け取り、なんとしても村へ帰るという思いを大きく膨らませる。聴力がかなり高い。無事に村へ帰る事が出来た。「兎のしっぽ亭」で働く事になった給仕係。ミルフィは木のみを売って生計を立てて居た頃からの知り合い。雪花祭<アンリージュ>に向け、フィリッツとアスール村の仕立て屋に赴いていた。ラスティルと一緒にミィコの誕生に携わり、ラスティル同様に自らが生み出した者を理解し恐れ、女性としての自信を若干失う。
ガルム・クォークス:
濃い茶髪。髭を携えた、ドワーフ。308歳。アスール村一番の鍛冶師。人間嫌い。人間を信用しないと誓いを立て生きていたが、ビルクァスや、ミコトと邂逅することで、もう一度人を信じようと心に決め、その想いをミコトに伝える。
ビルクァス・アルフィー:
黒髪、人間。31歳。灰色の目。七枝の一人。七宝玉の一つ、赤宝<ベルク>の加護を受けた剣士。それ故に魔剣ベルク・アインの所有者に選ばれる。アスール村の自警団、団長。主に村内の治安維持を目的とした団体で、門の警備なども担当している。三か月ぶりにミコトと再開する。炎兵都市アルディニアの元剣闘士であり、魔大戦において三大英雄たるニナ達が現れる前に戦線を維持していた英雄の一人。ミコトの行動に感謝しつつ、ミィコとは若干距離を置きたい気分。
ザキマ:
青髪。青目。銀旋騎士団の副団長。人間。アルフィーナに過去半殺しにされた経験がある。
クィンス・リーベリア
金髪、青目、人間。男性。初老。雪原都市アプリールの長にして、アリアーゼ城の主。アルフィーナが情報を求め来たことに対し、依頼をこなせと押し付ける。それを拒否したアルフィーナに怒りを向けている。アルフィーナからの要請に応じ、ミコトを雪原都市アプリールへ招集することを承諾する。と、同時に、アルフィーナに雪花祭<アンリージュ>に出るよう申しつける。
リュス・ヴィスヴァーク:
金髪。人間。男性。二十代後半。雪狼騎士団の団長にして、真正のクズ。部下の技能にイラつきを見せる。弓の名手。名弓・白亜の魔弓を持ち、人の生命力を糧に召喚できる「魔鏡」を使った魔力弾<タスク>による精密狙撃が得意。ミコトに対し、発言の撤回を求めるために決闘を申し込む。拒否権があるようにみせかけるが、その発言から実際にはない事を語る。ミコトから精霊を用いた拘束を使われ、身動きが出来なくなったとき、部下が言っていた「呪術」が使える。と言われたことを思い出し、若干恐れる。ミコトに対し、全く知らないであろう決闘を挑み、明らかに有利な状況で決闘を開始する。自分の眼前で起きた事象に理解が出来ていない。
布部 紘:ふべ ひろ:
出水高等学校2年。女子。16歳。1月17日生まれ。尊のクラスメイトであり、同じ部活、さらに同じ療育児童センターで育った。尊にとって妹のような存在。本人は姉のつもり。現実世界を離れてから、同じ月日が経ち未だあきらめずに尊を探している。
謎の男:
尊を異世界へと転移させた、謎の人物。
少女:
リュスとの決闘に使われた森に居た少女。魔族<アンプラ>。リュスの矢を受け、事切れる。




